せめて、サイコデュエリストらしく




「…ん?」

俺は足を止めて立ち止まった。今、裏路地へと曲がった奴が酷く気になった。そんな、まさか。心臓が早鐘を打つ。俺はそろそろと少しだけその路地を覗き込んだ。

「……嘘だろ?」

ひやりとした裏路地で待ち受けていたその人物に俺は愕然とした。オレンジの髪、背格好。いいやそれだけじゃない、顔まで一緒だった。あれは、……俺だ。鏡を見てるかの様だった。俺にそっくりの奴は、俺を見てにぃ、と笑った。それから俺に向かって手を伸ばす。背筋が凍った。

「っ、ひぃ、」

喉がひきつる。足が動かない。どうして。本能的な恐怖が俺を襲った。その手が俺に触れるか触れないかというところで、奴はまるで最初からいなかったかのように突然姿を消した。
耳に雑音が戻ってくる。なんで、今のは。エイプリルフールだからって、冗談にも程がある。まさか今のは。

「見たのね」
「うわぁあああ!!…………って、アキかよ……!」

突然隣に現れたのは十六夜アキだった。十六夜はコツコツとハイヒールを響かせて今しがた俺にそっくりの人物が消えた所へ歩み寄った。っていうか、「見たのね」って……、あれは見てはいけないものだったのか?

「あれはね、ドッペルゲンガーよ」
「ドッペル……ゲンガー……?」
「そう。ドッペルゲンガーと言うのは、自分の分身。そしてそれを見たものは」十六夜は一回言葉を切る。射抜くような視線が痛い。


「死ぬと言われているわ」


死ぬ。ただその話を聞かされただけなら、笑い飛ばせただろう。だが、俺は今実際に体験したのだ。自分そっくりの人間が、俺に向かって手を伸ばすのを。

「はは…嘘だろ、冗談きついぜ…」
「嘘よ」
「え?」

顔を上げると、アキが困ったような笑顔で立っていた。「ごめんなさい、そんなに真に受けるとは思わなかったの」と俺に一枚のカードを見せた。モノマネ幻想師のカード。対象の姿と攻守を写しとる効果を持つモンスターだ。そしてアキはサイコデュエリスト。実際にモンスターを実体化させる事が出来る。と言うことは、さっきのあれは十六夜の作り出した幻影という事か。

「冗談か……本気でびびったぁ……」

アキが差し出した手を掴んで立ち上がる。一本取られた。まさかオカルトの方向で攻めてくるとは。奥が深いぞエイプリルフール。

「クロウも怖い物が苦手なのね」
「も、って……他に誰か嵌めたのかよ」
「秘密よ」

ふふ、と意味深な笑みを残して十六夜は立ち去った。まだ心臓がばくばくしている。あの感じだとまだ十六夜は物足りなさそうだった。自分のことは早々に忘れて俺はひそかに次の被害者の無事を祈る。



「そういや、喉が乾いたな……」喉の乾きを感じて取りあえず今来た道を戻る事にした。



「そういや、遊星達はもう戻ってるのか?」
ふと気になって取りあえず今来た道を戻ることにした。







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