子ネタ

いい夫婦の日 遊ジャ編



TF設定。




遊星が、浮気をしているらしいぜ。
勿論ジャックはそんなクロウの耳打ちをバカだなと一蹴した。そんなわけないだろう。だがクロウは彼に似合わない真剣な顔をしていやまじだって、と反論した。「だとすれば相手は誰なのだ?」クロウは口を噤む。「ほらみろ、言えないではないか」ジャックはフンと鼻で笑って優雅に足を組み替えた。弾みで机にぶつかりコーヒーを思いっきりこぼした。そこではじめてジャックは自分が思ったより動揺していたことに気付いたのである。
「嘘だろう?」確認するように再度問いかけたジャックの視線をクロウは申し訳なさそうに顔を伏せたことで回避した。
「………すまねえ、俺、みちまったんだよ……」
そんなことをクロウが真顔で言うものだからジャックはコーヒーを拭くのも忘れてクロウに話を聞かなければならなかった。どくどくと心臓がなる。このジャック・アトラスが、浮気をされたなどと!と憤慨する隙もない。ただ、純粋にショックだったのだ。それしか言葉が思い浮かばなかった。こぼれたコーヒーの染みがぐるぐると床に醜い染みをつくっていった。

ジャック・アトラスは思い立ったらすぐに行動する男である。クロウから情報を搾り取れるだけ搾り取ったジャックはターゲットを突き止めた。それは大会を盛り上げるチアガールの一人だった。だが、ジャックはそのまま彼女に詰め寄るような真似をしない。罪を認めさせるのには現行犯逮捕が一番だと風馬の事件の時に熟知している。だからジャックは辛抱強く待った。我慢の弱い短気な男だと思われがちだが、遊星がらみだと途端に粘着落とし穴も真っ青な粘り強さを発揮する。それは2年間遊星をシティで待ち続けていたことをみても明らかだ。ちなみに勘のよさも電波並みである。
「あ、遊星さん」
チアガールの女性はそういって姿を現した遊星にぱたぱたと掛けていった。おのれ遊星!本当だったのか!ジャックは今にも飛び出して追求したい気持ちにかられる。だが今はぐっと我慢しているべきだと押しとどめた。『まずは証拠を押さえてから』だ。
「今日の試合もよかったです」
「あぁ、ありがとう」
遊星はそういってぎこちなく笑みを浮かべた。付き合いのながいジャックはそのちょっぴり不恰好な笑みこそがほんとうに嬉しいときに遊星が浮かべるものだと知っていた。ジャックの嫉妬はますますつのるばかりである。しかし遊星はジャックの思惑から外れ、やはりぎこちなく手をあげてチアガールから離れていってしまった。ジャックは少しだけ拍子抜けし、安心してしまった。壁に背を預ける。……しかし、疑念があれで晴れたわけではない。ジャックはまたも重苦しくなってくる心に目を閉じる。遊星を信じたい。そう思いたいのはやまやまである。だが、やはり疑わしい箇所がある以上、完全に信じることはできないだろう。普通の人間ならそうだ。
「ジャック」
聞き覚えのある声がしたのは決して空耳ではない。
「どうしてここにいるんだ」
ジャックは薄く瞼を開けた。そこにはやはり想像通り不動遊星が立っていたのである。ジャックはどうすべきか一瞬迷った。
「……貴様こそ何故ここにいる」
「大会に出ていたんだ」
「それ以外の理由があるように思えるがな?」
ジャックはわざとらしく遊星を挑発するようにねめつけた。しかし遊星は本気でわからないというように首をかしげるばかりである。「何を言っているんだ?」ジャックにはその遊星の態度がだんだんしらじらしく見えるようになった。
「チアガールとずいぶん仲がいいようじゃないか」
「……それは」
そこでふ、と遊星が目をそらしたことによってジャックの疑問はいよいよ確信に昇華されたのである。ああやはり、遊星は浮気をしていたのだ!僕の体色にも劣らない煮えたぎるような感情がジャックを支配した。ジャックは一気にたたみかけようと口を開く。だが「頼むから、笑わないでくれ」と遊星に先を越されてしまった。笑う?なにを笑う余裕があるのだろう。こちらは怒りでなにも考えられない状態だというのに。そう思っていたジャックでさえも、次の一言には見事に怒りを鎮火させられたのである。予想外すぎて。
「……その、母さんに、そっくりなんだ」
え、とジャックは遊星をみつめた。遊星はわずかに微笑ともとれる表情をして説明していく。クロウが壊れたモーメントから写真を持ってきてくれたんだ。別人だとはわかっていたが、やはり気になってな。すまなかった。遊星はそういって頭を下げた。ジャックはどうしていいかわからなくなる。
「だが、ジャックが嫉妬してくれるとは思わなかった」
「な、俺は嫉妬など……」といいかけて先ほどまでの自分の激怒を思い出して「……したが」と小さく付け加えた。そもそもこの情報源はクロウだったはずだ。しかし写真を持ってきたのはクロウで、チアガールが遊星の母親と似ていることを知っているはずだった。ということは。ジャックの中で何かがぴんとつながった。
「クロウ、あいつめ…!!」
つまりはあのトリックスターにまんまとしてやられたわけだ。今頃クロウは悪戯の成功にほくそ笑んでることだろう。
「その…ジャック」遊星はうっとりとしてジャックを見上げた。両手はいつの間にかがっちりホールドされている。「嬉しかった。ジャックがこんなにも俺のことを想ってくれていて」そして背中が痒くなるようなことをさらりと言ってのけた。ジャックの白い肌に赤みがさっと広がる。とりあえず深呼吸を一つ。だめだおちつけるわけがない。ジャックが真っ赤な顔で「もう十分だ……」と音をあげるまで嬉し恥ずかしスーパー羞恥タイムは続いたのであった。





一人似てる人いませんか。

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