子ネタ
いい夫婦の日 京クロ編
TF設定。手島×あゆみも有り。
おい鬼柳。聞きたいことがあるんだが、あ、いやオレ様のことじゃねぇよ!?俺の子分が悩んでることなんだが、とあるヤツのことを考えるとぎゅーって胸が苦しくなったりするらしい。…だからオレ様のことじゃねえって!これってなにかの病気なのか?それとも、これが周りのヤツらが言ってた「呪い」ってヤツなのか!?……し、信じてねえよ!!あいつがそんなことするはずが……。だぁー!!うるせえぞ!ああそうだよ子分じゃねえよオレ様のことだよ!鬼柳ならこれがなんなのかわかんだろ!?いいから早くオレ様に教えろ!
顔を真っ赤にさせて怒鳴る手島を鬼柳ははいはい、となだめすかして目線をあわせた。小さな肩に手を置く。顔はいたって真剣そのものだ。
「それは、恋ってやつだ」
鬼柳はにやりと笑っておめでとう、お前にも春が訪れたな、と言う。手島は最初こそぽかんとしてたが鬼柳が声をかけるとさらに顔を真っ赤に染めてうつむいた。ガキ大将形無しである。そんな手島がほほえましくつい鬼柳は応援してしまいたくなった。
いいか、と鬼柳は鋭く切り込んだ。「そうと決まればさっそく告白だ!他の男にとられちゃまずい。せめてせめてせめまくるんだ!俺はそれでクロウをおとした」最後にのろけも忘れない。手島が動揺する前に鬼柳にごすっ、っと鉄槌がくだった。銀髪が地に沈む。
「なーにくだらねぇ話してんだよ!!」
クロウはそう怒鳴りつけると手島にむかって「なんか変なこと吹き込まれなかったか?」と聞いた。手島は言葉をうまく探すことができずに黙った。あのガキ大将の代名詞とも言える手島がこんなに黙り込むとはきっと鬼柳がまた変なことを吹き込んだに違いないと勝手に決めつけクロウはぎりりと鬼柳をにらみつけた。それにこりずに鬼柳はいきなり「そうか!!」と飛び起きる。
「ダブルデートしよう!!俺とクロウと手島と瀬良で」
「わー!!!なにバラしてんだよ!!」
手島は青くなって鬼柳の腹の辺りをばしりと叩いた。所詮子供の力では大したダメージにはならない。はずがない。しっかりと急所をとらえた一撃は鬼柳の口を一時的に閉ざすのには成功した。しかし次にはクロウのからかうようなそれでいて見守るような視線が待っている。
「何?お前告白すんの?」にやにやと笑いながらクロウは楽しげに聞いた。「ガキが色気づくにはまだはえーよ」とからかうその口調はけして冷たいものではない。好意的なものだ。
「く、クロウには関係ねーだろ!!」
分の悪くなった手島はそういって脱兎の如く逃げ出した。へーあいつがねえ、とあゆみへの密かな思いを知っているクロウは青春だなと一人ごちる。その呟きにようやくダメージから回復した鬼柳も小さな声で同意した。
「なんかいろいろと思い出すよなぁ」黄色の目が思い出すように細められる。「あんなにほほえましいもんじゃなかっただろ、俺たちの場合は」クロウがそう言葉を返す。
あんな劣悪な環境で、恋なんて可愛らしいものではなく自分達は愛をむさぼりあっていた。飢えた蜘蛛のように執拗に、嫉妬深く、容赦なく互いにないものを奪い合った。鬼柳はクロウに愛されることを常としていた寂しい男であったし、クロウはそんな鬼柳に依存し溺れこんだおろかな男だった。だがあんなに感情でも確かに当時は美しい愛だと思えたのだ。色がたとえ醜いものでも形はいびつにもハートをかたどっていたのだ。サテライトだから。幼かったから。同性だったから。理由はごろごろといくらでもみつかった。
「でも幸せだった」鬼柳はそれでも幸せだったんだ、と繰り返した。
「人の恋愛なんてそれぞれだろ」クロウも同調する。
あの幼い子供たちは、近々二人のところに来るだろう。そしたら二人は子供たちを連れてシティへと行くのだ。そして4人で映画をみる。盛り上がるアクションものじゃなくて、とろけそうなラブロマンスにする。見終わったあと、完全に夢の世界へと旅立っている3人をあゆみが揺さぶり起こし、食事に出かける。その後は買い物だ。旧サテライトではまだまだ高級品といわれている携帯電話を少女に買ってやろう。
そして子供たちを無事家に送り届けたあと、鬼柳はクロウを誘い出す。チーム・サティスファクションのアジトは開発の手が入り取り壊されていた。それにあそこの記憶は苦すぎる。だから場所はシティとサテライトの希望の架け橋、ダイダロスブリッジ。潮風に体を震わせるクロウに鬼柳はコートを貸してやる。そうして夜まで肩を並べて語り合うのだろう。そんな想像。隣の男は笑うだろうか。
「楽しみだな」
「あぁ」
どちらからともなく身を寄せた。触れ合った箇所から相手の体温が伝わってくる。この際どれが正しい愛の形かなんて考えないことにした。ただ想いあっているだけでいい。簡単なことだったんだよな、と鬼柳かクロウの肩を引き寄せながらそう呟いた。
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