転生ガチャをやり直したいモブの話
世の中にはメインキャラとモブの2種類がいる。メインキャラは無駄にきらきらしてたり、少し変わったオーラを身に纏っていたりする。一方モブは凡庸で普通。メインキャラの影で生きる地味で目立たない存在。グロ系の漫画だとよく一番はじめに殺されるのは俺たちモブ。
俺はそのモブで、モブはモブらしく生きますよなんて笑っていた。
だが、そんなモブにもモブはしかぬ特徴がある。所謂転生者というやつだ。今流行りのなろう系である。転生したら〇〇だったあれだ。テンプレ通りなら、転生したら勇者だったとか、転生したら悪役令嬢だったとか、なにかしらメインキャラの筈。そして、転生特典としてハーレム補正標準装備のはずなんだ。
それなのに、なぜ、俺は、転生したらモブだったなんていうクソつまらない展開になっているんだ。異世界とかでもなく、俺が前に生きた世界と全く同じで、世界線が違うだけなのはおかしくないか?
マジでありえん…。あり得なさすぎる。
しかも、この世界はなんかよく分からない化け物がいるだけで、それ以外はなんら変哲がないのだ。
俺にも転生特典があるのだが、ほぼ使用することのない能力なので省いておこう。
俺はメインキャラには殆ど関わらないモブである。中学時代に1人だけ周りと違うオーラをした友人がいたが、中学時代卒業後に親の転勤でそれ以来会っていなかった。
それなのに、なぜ、このタイミングであってしまうのか。
ことの発端は、俺の友人の一言だった。
「今日、肝試しいかね?」
「あの旧校舎?」
「そう!なんでも取り壊し工事しようとしたら死人が出て工事が中止になったとか、入った生徒が行方不明になったとか、開かずの扉があるとか、めっちゃ色々噂になってんじゃん?面白そうじゃね?」
「所詮噂でしょ」
「何お前、ビビってんの?」
ビビってねーしという友人たちの話を聞き流しながら本校舎から見える旧校舎を眺める。明らかにヤバそうなオーラがしていて、上には奇妙な化け物が奇声をあげていた。
「やめたほうがいいんじゃ…、そもそもどうやって入るんだよ。鍵かかってるよね?」
友人Aはその言葉を待っていたと言わんばかりににんまりと口角を上げた。そして、ポケットから取り出した鍵をこちらに見せつけてくる。
「合鍵。職員室から拝借しちゃった!じゃあ、お前ら今日の22時校門前集合な」
反論する前にそいつはどこかにいってしまった。この時、意地でも止めればよかったとあとで後悔する。
あの化け物は、入った俺たちを敵とみなしたようで襲いかかってきたのだ。友人Aは早々に化け物に取り込まれ、Bも逃げている最中に逸れた。
転生特典が、ここで役に立つとか最悪だなと思いながらもゆっくりと目を開く。俺の瞳は青く発光し、幾何学模様が浮かび上がる。
これが俺の特典。BBBに出てくるレオナルド・ウォッチが所有する【神々の義眼】そのもの。至高の芸術品と歌われるし品物で、本来であれば俺のようなモブが持っていても役に立たない。
あぁ、でも、今、この瞬間だけ神に感謝しよう。
友人Bの視界を探し当て、その視界から場所を割り出す。Aはもうすでに飲み込まれているが、まだ、生きているようで望みはある。
友人Bよ、どうか生きていてくれ。そう願いながら俺は無駄に長く感じる廊下を走った。
走っていると窓から何かが入ってきて、思わず足を止める。そこには先ほどAが取り込まれた化け物と全く違う種類のやつで。
「嘘だろ?2匹も、いや、何匹いんだよっ…!」
視野を広げると周りに何匹もの化け物がいることがわかった。ふざけんなよ。
「かかってこいよ!平眼球!!」
瞳を起動させる。幾何学模様の魔法陣が目の周りにいくつも展開される。
ーー視界シャッフル
やはり目がある化け物に効くのか、俺の行手を阻んだ化け物たちはその場に倒れていく、足止めには十分だろう。俺は倒れた化け物たちの間を抜けて友人の元に走った。
目的の教室の扉を開けると、そこの教卓の下に体を縮こめて座っていた。俺の姿を認識したそいつは一度安堵の表情を浮かべるもすぐ顔を強張らせる。
「早く逃げるよ!」
「あ、あぁ」
へっぴり腰になってるそいつの腕を引っ張り立ち上がる。襲ってくる化け物は全部、視界シャッフルで昏倒させ、走り抜けいく。なんとか、入り口まで来たと思ったら、ラスボスっぽいAを飲み込んだ化け物がやってきて、Bを外に押し出し鍵を閉める。
ばんばんと背中を木が叩く。
なんで、こんなことしちまったんだろ。でも、ここで、コイツを見捨てた、寝覚が悪すぎる
「クソ化け物!俺の友だちを返しやがれ!」
俺は目を開いた。幾何学模様が無数にある目を全てに反映される。使いすぎたら目が割れるかもしれないが、あくまで道具で、使い手次第だって、アニメでザップが言っていた。俺は、レオじゃないけど。
だけど、友だちを助けるのに他に理由なんていらないだろう。
見えている腕を思いっきり引っ張り上げる。ぶちぶちと繊維が切れる音がするが、気にしない。引っ張り上げても、そいつは離そうとしなかった。
俺がさらに力を込めようとした時だ。視界シャッフルでまともに立っていられない筈なのに、化け物はでかい腕で俺を掴み、俺を投げ飛ばした。
マジで、死ぬ!
そう思い、衝撃に備え身体を丸める。
いつまで経っても衝撃は来ずに、辺りを見渡すと見知った顔が俺のことを捕まえていた。
「い、虎杖!?なんで、ここに…!って、そんなこと言ってる場合じゃない…、早く逃げろ!化け物がいるんだよ」
「大丈夫だって、心配すんな」
「大丈夫じゃないんだよ!アレは俺の友だちを飲み込んだんだ!!」
虎杖は俺の中学時代の友人で、向こうの高校に通っていた筈。なのに、なぜ、今ここに、しかも他校にいるんだ。そんな疑問は尽きないが、目の前にいる化け物からコイツを逃さないと。
俺が1人で慌てていると、虎杖は大丈夫と言い俺をその場におろした。そして、走っていったと思うと拳になにかオーラっぽいものをタメでそいつを殴った。馬鹿力だと思っていたがこれほどとはと感心すると同時に、化け物は醜い断末魔をあげて消えていく。友人Aは虎杖が抱えていた。
俺は呆然としたが、慌てて立ち上がり友人のもとへ駆け寄る。少し足がもつれたが、無事に辿り着き、様子を見ると穏やかに息をしていた。
「よ、よかった…」
おもわず、その場に座り込みそうになる。
それよりも聞かねばならないことがある、だがそれは聞いてもいいことなのだろうか。プライベートなことだろうし。
そう頭を悩ませていると閉じられていた扉が開いた。そこには、銀髪に目隠しをした全身黒ずくめの不審者が立っていた。隠された目には不思議なオーラがみえる。変わった目を持った人間だ。きっとメインキャラ。
「うんうん、無事祓えたみたいだね。関心関心」
「あ、先生」
軽いノリでそういう虎杖に思わず、首がブリキのおもちゃのようにギギギっと音を立ててそちらを向いた。
「虎杖、お前、あの不審者と知り合いなのか…?」
「が、学校の担任」
「はぁ!?あんなのが教師な訳ないだろ?!お前、東京に来てやばいやつに騙されたんじゃないのか?!いい奴だから、借金の保証人とかなって、闇金に売られたりとか、ヤクザと関わりがあったりとか…!おまえの為だ、考え直せ、な??」
俺が虎杖に力説をしていると、後ろの方で「ひどい言われよう…」とか聞こえてくるが無視だ。無視。
「大丈夫だって、見た目はアレだけど、いい人だから」
「お前にとっては誰だっていい人だろ!?」
「おま、俺どんなイメージなんだよ…」
虎杖にやめておけと、ひたすら言っていると後ろから突然頬を掴まれ、グイッと顔を上に向かせられる。急に動かされたので首がすごく痛い。
目隠しを少しずらした青色と目が合う。
「ねぇ、目開けてみて」
「開けてますけど!?」
「そういう意味じゃなくて、ちゃんと開けて」
「悪かったですね糸目で!目が細くて!!」
なんだこの失礼な人は。
逃げ出そうと暴れるもすごい力で、抑えられる。さすがは虎杖の担任(仮)。ゴリラはゴリラを育てるのか。
「上の呪霊君の仕業でしょ?みんな目を回して倒れてた」
「知らないって…!虎杖助けて!」
「ほら、開けて」
虎杖があわあわとどうしたらいいのかわからないのか、手を右往左往させている。このゴリラ俺が眼を見せるまで絶対離さない。首がそろそろ悲鳴をあげている。これ絶対クビやってる。
俺は諦めたようにゆっくりと眼を開ける。青く発光し、幾何学模様が浮き上がる。そのまま、俺と目があったるゴリラの視界をめちゃくちゃにしてやろう。
ーー視界シャッフル
ゴリラの力が緩んだところで抜け出し、虎杖の後ろに隠れる。ゴリラは視界に酔ったのかヨロヨロとよろめく。チッ、吐けよ。
「おぇ…。全く、なんでそんな代物を持ってる人間がこんなところで野放しになってたのか」
なにか格好つけてるみたいだけど、壁に手をついて完全に吐く寸前の酔っ払い。
「え、なに?そんな凄いの?」
「凄いなんてもんじゃないよ、うぷっ…。神々の義眼っていう、神が作ったとされるヤバい品物。僕の目がSSRなら、あれはUR級」
「マジで!?」
吐きそうになりながら解説してくれている。
「取り敢えず、一緒に来てもらうよ」
そう言われ、思わず悪寒が走った。
そもそも俺はこんな眼を持っているが、メインキャラではなくモブ。それにおそらくこの世界線でモブはいの一番に殺されるタイプのやつ。
俺の作戦はいのちだいじに。
つまり、俺がやることはただ一つ。この場のやつ全員を混沌させて逃げること。虎杖ごめんと思いながらも、虎杖とゴリラの視界をシャッフルさせ、その場からさった。
逃げる時にゴリラが吐いてる声が聞こえたがそんなの知らない。
ザマァみやがれ、イケメンゴリラめ。
転生ガチャやり直したい…!!
俺も美少女に囲まれてハーレム異世界ものやりたい。
という淡い期待を消えていく。
俺がゴリラに捕まるまで、あとーーー
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