- ナノ -


何故だ。何故お前は振り向かないんだ。世界一の頭脳を持つ天才科学少年であるこの僕にどうしてお前は振り向いてくれないんだ。あんなチビで頭脳もラボの規模もクオリティに於いても僕の足元に及ばないちんちくりんなデクスターとどうしてそんなにも親しげに、僕にも見せたことのない笑顔で話をしているんだ。こんな完璧としか言い様のない僕に何の欠点があるっていうんだ。疑問は無限大に膨らみそしてどれも答えに辿りつけず永久にループする。

(天才であるこの僕が、だ。笑ってしまうだろう?)

僕が近付くと怯えた顔をするなまえに怒りが隠せない。どうしてそんな顔をするんだ。そう聞いたことがあった。
すると彼女は「どうして私の写真を、」となんとも馬鹿馬鹿しい答えが返ってきた。多分僕の机にあったものを見たんだろう。友達とカフェで談笑するなまえ、自室のベッドで雑誌を読んでいるなまえ、嬉しそうにアイスキャンデーを作るなまえ(隣にいた憎きライバルの顔は、現像してすぐレーザーで黒焦げにしてやった)。お前は本当に馬鹿なんだな、何故僕がお前の写真なんて持ってないことがあるだろうか。いやない。僕の科学力を駆使したらそれくらい容易いことなのさ。
逃げようとしている彼女の手首を掴み上げ、そのまま壁へと追いつめて噛み付くようにキスをした。固まっているなまえを余所に、くちゅくちゅとわざと音を立てて彼女の口内を自分の色に染め上げた。
ようやく満足して僕が唇を離すとなまえはへたれこんだ。頬には涙が流れていた。ああ、ぞくぞくする!

「っは、な…なんで、こんな、こと……」
「……本当に馬鹿なんだな、お前」

今日はこの位にしてやるよ、と吐き捨てた僕はなまえを残して出口へと向かった。
自分の唇を舐めると、彼女の好きなスナイダーズのキャラメル味がした。

また明日。