トノサマンドリンクを2つオーダーした後、真向かいに座る御剣さんに視線を移すと、カフェメニューを物珍しげに見つめていた。私も他に何をオーダーしようか考えるのと同時に、些細な悩みと葛藤していた。
一人で来ていたら間違いなく財布とお腹の中が許す限りオーダーするのだけれど、今日は御剣さんが一緒だ。テーブルに収まらないくらい注文したら意地汚く思われないかな。いや、思われるだろうなあ……内心頭を抱えていると。
「……私といても、つまらないだろう」
「え?いえ、そういうわけでは」
「無理はしないでほしい。あまり気の利いた話もできない男だからな」
御剣さんは自嘲するかのようにに笑っていて、心臓がぎゅっと縮んだような気がした。もしかして、今の私の顔、そんなに楽しくなさそうに見えるのだろうか。
彼の顔が凄く寂しそうで、慌てて次の言葉を探した。そう思わせてしまった私のせいだ。
「違います、御剣さん! あの、……出来るだけ沢山頼みたいんですけど、それを言おうかどうか迷ってしまって……ごめんなさい」
「な、何……?」
「例えばこれを頼むと、限定コースターがついてくるんです。こういうイベントが前にあった時は一人でテーブルいっぱいに注文しちゃって……あ、ちゃんと残さず全部食べますよ!」
何の言い訳にもなってないし、なんなら言わなくて良いことまで口を滑らせてしまった。御剣さん、今度こそ呆れたかな。
メニュー表で顔を隠すと、くい、と優しく引っ張られて、御剣さんと目が合った。さっきよりも優しそうな表情で。
「……フ、ならば今日注文が出来なかった分は、また日を改めてご一緒させていただこう」
「す、すみません……ありがとうございます」
お互い深々と何故か頭を下げ合ったところで、店員さんが注文を取りに来てくれた。
御剣さんとまた来られるなら、少し品数もセーブしようかな。
「美味しかったですね! おなかいっぱいです」
「あ、ああ……そうだな」
2人で街中を歩くことに決めたのはいいものの、さっきまで普通に喋っていた御剣さんが急に口を噤んだので、不思議に思って彼の視線を辿った。
その先にはベンチに座っている一人の男性がいて、こちらをキラキラとした目で見つめている。この前会った矢張さんではないみたいだ。
「御剣さん、お知り合いの方ですか?」
「うム、まあ……知り合いではあるのだが……」
立ち上がった男性は白いスラックスを手で軽くはたいたあと、優雅な足取りでこちらに歩いてくる。
御剣さんの表情が心なしか硬い表情なのとは裏腹に、目の前でピタリと止まった男性は人懐っこい笑顔で帽子を取った。
「……お久しぶりです、信楽さん」
「レイジくん、またそんな怖いカオしないでよー。そしてお嬢さん、初めましてのハグはどうですか?」
「えっ」
「信楽さんッ!」
「じょ、冗談だってば……でもレイジくん、可愛い女性とデートの時にその仏頂面は良くないぞ!」
「ぬぬぬぬう………」
矢張さんとはまた違うタイプだけど、見事に御剣さんをやり込めている。彼の周りの人は、個性的な人が多いみたいだ。
「実はさっき、レイジくんの執務室にちょっとしたモノを置いてきたんだ。後で見ておいてくれるかな」
「ちょっとしたモノ……一体何ですか?」
「それは見てからのお楽しみ……と言いたいとこだけど、お嬢さんに免じてヒントをあげる。レイジくんが追ってる事件に関係する証拠品だよ」
「!」
「……さて、邪魔者のオジサンは退散しようかな。それではまた、可愛いお嬢さん」
ヒラヒラと手を振りながら、信楽さんは街中の雑踏へ紛れていった。御剣さんは腕組みをしながら何事か考え込んでいるみたいだ。
トノサマンカフェの後は特に予定を決めているわけでもなかったし、このまま今日は解散だろうか。少し残念だけど。
「……キミも来るか? 私の執務室に」
「そ、そんな、私なんかが行ってもお仕事の邪魔になるだけですよ」
「そんなことはない! ……いや、その、執務室にトノサマンの人形を飾ってあるのでな。ファンであるキミにそれを見せたいのだ」
「是非行きたいです!」
「む、むう……」
トノサマンのこととなると即答だな、と呆れたように笑う御剣さんに、私もつられて照れ笑いした。
(よくもまあ、すらすらと御託を並べられるものだ。自分でも感心するほどに)