- ナノ -



迂闊だった。長年の同胞だったが故に油断していた。信頼していたともだちに裏切られた挙句、一番大切な日に、西暦を終わらせようとした日に、僕は銃で撃たれた。全身に走る衝撃と痛みで、思うように体が動かない。

冷え切った空間にそぐわない、嫌な生温かさが肌を伝う。理科室に集まったかつての同級生達は、戦慄した表情で僕を見つめていた。僕を撃った当の同胞でさえも。

くそ、そんな目で見ないでくれ。哀れむような目で見られるのが何よりも不愉快だ。まだ、終わらないのに。

そう吐き捨てようとしたが、ごぶ、と血泡が口から溢れ出てくる。息も絶え絶えに、側にあったワゴンに凭れかかった。
醜い呼吸音が喉の奥から上がってくることに苛立ちが収まらない。死ぬのか、この、僕が………いやだ、いやだいやだ

「もう少しで僕は、」

意識が徐々にブラックアウトしていく。横からの重量に耐えきれなくなったワゴンがずるりと動いたのと同時に体のバランスを崩し、あっけなく床に斃れる。こんな無様な姿を、彼女に見られなくてよかった。

ああ、なまえは大丈夫かな。彼女を気にかけていた、万丈目や敷島教授の娘あたりが匿ってくれるだろうか。
僕が思い描いた未来を、世界の終末を、彼女と共に見ることができなかった。なまえを一人遺してしまうこと、ただそれだけが心残りだった。
人類の滅亡を望んでいた僕が、一人の女の生存に心を砕くなんて、これほど滑稽なことはない。
自然と口角が上がって笑いそうになったが、声はもう出なかった。

瞼が徐々に重くなる。自分の名を呼ぶオッチョの声を無視することで、少しだけ昔の鬱憤を晴らすことができたような気がした。どこからかまた銃声が聞こえたが、もはや自分にとっては他人事のように思えたので、考えるのをやめて目を閉じた。
もう一度なまえに会いたいな。


走馬灯のように巡る記憶の中で最後に浮かんだのは、笑顔で秘密基地に入る彼女を外から見ていることしかできない、幼い頃の自分だった。