- ナノ -



それから、ゆみひこくんは頻繁に遊びに来るようになった。私もバイトがある日以外は暇を持て余していたし、もしかしたら託児だなんだって目くじら立てる人もいるかもしれないけど、ゆみひこくんは高そうなお菓子(たまに粉々になっている)が入った紙袋を来るたびに持ってきては、オヤジにもらったから一緒にたべよーぜ!とキラキラした目で訴えかけてくるのであまり苦ではなかった。
ちなみにパジャマは早速翌日遊びに来たゆみひこくんから返してもらえました。

「今日も、弟いないよ」
「だいじょうぶ、なまえがいるから」

脱いだ靴を丁寧に揃えながら、ゆみひこくんはにっこりと笑った。
ゆみひこくんや黒服の人達が何か言ってくれているからなのか、未だ彼のお父さんからの接触は一度もない。お菓子が挨拶代わりみたいなものなのだろうか。あと、ゆみひこくんに改めて聞いてはいないけど、兄弟やお母さんがいないんだな、と会話の端々から何となく察した。

彼が持ってきてくれたお菓子でおやつタイムを過ごした後、リビングのソファに私は腰を下ろした。彼はいつも通り私の隣にぴったりくっついてくる。
なまえはあったかいな、なんて言って全身で寄っかかってくるから、結構重い。

「あ、あのな……なまえ、その、今から目をつぶっていてほしいんだ」
「え?」
「いいから!」

そばにあったクッションをぼふ、と顔面に投げつけられた。内心ほっぺたをつつき回してやろうかと思いつつ、しぶしぶと顔にクッションを埋める。対照的にゆみひこくんは、楽しそうに鼻歌なんか歌いながらもぞもぞ動いているようだった。
な、なんだか左手がすごく擽ったい。

「できたあ! なまえ、あけていいぞ!」
「……これは、何かな?」

私が擽ったさを覚えていたのは、赤色の細いミシン糸のせいだった。ぐるぐると薬指に巻かれていて、所々絡まっている部分もある。
これはもしかして、と私が視線を移すと、予想通りのどや顔で同じ糸を巻き付けた自分の薬指を私に見せつけてきた。

「こうすると離れなくなるって、オヤジがいってた。だから、なまえとオレはこれからもずっと一緒だ!」

な、なんてことを教えているんだお父さん!
そしてなんてベタなんだゆみひこくん! 可愛いぞ!

「ゆみひこくん、ありがとうね。でも、キミが結婚できる頃にはもうオバサンだよ」

この後ゆみひこくんがなんて言ったのか聞こえなかったけど、彼の頭を思いっきりわしゃわしゃしてやった。お返しと言わんばかりに、ゆみひこくんが細い腕でぎゅっとハグしてくれて、温かい気持ちになった。
もし私が同学年の女の子だったら、きっと陥落していたと思う。合掌。