- ナノ -


いつまで経っても衝撃が走らないのを不思議に思って、私はきつく瞑っていた目を恐る恐る開いた。
男の子が自分の腰のあたりをぽんぽん、と拳で叩いてみせていた。
「痛くないの? 結構な量の血が出てたはずだし、万が一止血できたとしてもそんなことして平気なの?」思わずそう尋ねると、彼は得意げな顔で鼻を鳴らし、やがてチェーンソーを止めた。

どっと全身の力が抜ける。人を殺めずに済んだ安堵感が、私の気分を高揚させた。

「本当にごめんなさいね。どうか、お詫びをさせてちょうだいな」

もう片方の彼の手を握り顔を近づけて迫ると、見る見る頬が染まっていって胸がきゅんとなった。
何よこの子、とっても可愛いじゃない。あわよくばこのままただで帰してもらえそうかも……と思ったその刹那、男の子の背中の方から大きな爆発音が聞こえた。どうやらただじゃ終わらなさそうだと肩を落としたのは、仕方のないことなのよ。

彼から視線を外して音が聞こえた方向を見ると、大きな箱の中から黒煙がもくもく立ち昇っていた。
その陰から、太陽の被り物をした男が現れたの。なんだか彼と少し似ている気が、しなくもなかったわね。
その彼は素早く私からどいたかと思うと、艶っぽい表情が描かれている黒い玉をポシェットから取り出して、火をつけていたわ。
爆弾なんて入ってたのね、それ。
思考が完全に麻痺していたのはここだけの秘密でお願いね。応戦を目の当たりにして、私ははたと気がついた。

そうよ、ここから逃げなきゃ。

彼は私の存在なんか忘れてしまったかのように太陽に向かって爆弾を投げるのに夢中だったみたい。
じりじりとテントの壁を背中で這いながら出口に近づいて、私はそのまま一目散に逃げた。