- ナノ -



宇宙にある星の数を熱心に数えるという、何処かで見たことのあるような研究をしているマンダークを横目で見ながら本のページを捲る。

彼は全くもって理解不能なところがある。
ちょっと散歩しようと思ってラボの外に出ただけで物凄く怒られて連れ戻されるし(不条理よ!)、かと言って話しかけると煩いとか言われるから、大人しく椅子に座って読書をする以外に暇を潰す手立てはないというわけ。悲しいけれど、これが私達のデートなのだ。
でも私だって女の子、公園のベンチで爽やかな風を受け止めながらお喋りをしたり、アイスクリームを一緒に食べたりショッピングしたりとか、もっと普通のカップルがするようなことがしたい。
超の字がつくインドア派の彼にそんなことを言っても鼻で笑われて一蹴されるに違いないから、そんな我が儘なんか言えないし言わないけど。天才のくせになんでそんなことが分からないんだろう、……いや逆にそうなのかな。よく分からなくなってきた。

「新しい紅茶を入れましょうか?」
「……あ、ありがとう」

カップをロボットに渡すと、良い香りのする湯気の立った紅茶が注がれた。
もう一度お礼を言うと、そのロボットは緑色のランプをチカチカさせながらラボの奥に消えていった。

「……はあ」

溜息をついて立ち上がると、私に背を向けて(……)座っているマンダークに近づく。

「……マンダーク」
「ん?……ああなまえか、もうしばらく時間が掛かる」
「私帰ってもいいかな」
「……煩いな、座ってろって言っただろ」
「……もういい」

半ば吐き捨てるように呟いたあと、本を鞄に投げ込んでラボの出口へと向かう。
何よそれ、貴重な日曜日に呼び出したのはそっちのくせに、どうしてそんなこと言われなきゃいけないの?彼氏なんだし外に出たくないのなら、家でもできるモノポリーなりボードゲームなり一緒にやろうよ、一人でもできる実験ばっかりしていないで構ってよ。本当に私がいてもいなくても同じじゃない。

そう罵りたいのを抑えつつ、長い道のりを経て出口に繋がる扉に着くと、そこには先程のロボットがたたずんでいた。私を目ざとく見つけたそのロボットは、今度は赤い光をチカチカさせて話しかけてきた。

「なまえ、貴女は出てはいけないことになっています」
「……マンダークが良いって言ってたよ」
「そんなこと言ってないだろ」

「え」

後ろを恐る恐る振り向くと、マンダークが不機嫌そうな顔で全自動の移動椅子にふんぞり返っていた。

「ほら、戻るぞ馬鹿なまえ」
「え、ちょっと、マンダーク!」

勢いよく両手を引っ張られて、マンダークの胸に飛びこむような格好にさせられると、そのまま移動椅子は高速発進した。
機械的な景色が目まぐるしく移動する中、私は嫌味たっぷりに聞いてやった。

「私より大事な星はもういいの?」
「ああ、あとはロボット達に数えさせている」
「……本当意味わかんない。最初からそうすれば良かったのに」

「……お前といると何したらいいのか分かんないんだよ」
「!」

ああもう、と頭をくしゃくしゃする彼を見て、さっきまでの怒りは一瞬にして綺麗に消え去った。
ふふ、顔真っ赤だよマンダーク……多分私もだけど。