- ナノ -



「王泥喜くんって……法廷に立ってる姿、格好いいよね」
「!……げほッ、ゲホゴホッ」

ノドに食べ物を詰まらせたのか、彼は胸の辺りを拳で強く叩いていた。慌てて私もお茶でアシストしながら、背中をさする。
しばらくして一段落ついたのか、王泥喜くんは顔を赤くしながら、震える声で私の名前を呼んだ。

「う、あ、あの、なまえさんは……オレを恋愛対象として見てくれるんですか?」
「……そりゃあ、あれだけ一生懸命やってくれたら意識しちゃうよね」

胸の奥に閉まっておくつもりだった言葉が、思わず出てしまった。
完全に失言だったことを悔やみながら、取り繕うための言葉を慌てて探した。

「で、でも、職業柄見慣れてるはずなんだけどね。私を守ろうとしてくれたのは……仕事だからだって。わ、わかってるんだけど」
「なまえさん、それは違います!」

何故だか泣きそうになったけれど、良く通る彼の声が心地よく脳を揺らして、徐々に気持ちが落ち着いていく。
王泥喜くんは握りしめたままだったお箸をお皿の上に置いて、私の肩に手を乗せた。

「なまえさんの弁護を申し出たのは、絶対に無罪だと確信していたのもありますけど……一番の理由は、……なまえさんをオレの手で守りたかったから、です」
「……なんでそこまでしてくれるの?私達、今回の事件が起きるまで一度も会ったことないよね?」
「ありますよ、一度だけ……別の法廷で。なまえさんと会ったのはそれきりでした。書記官と弁護士じゃ次も同じ法廷とは限らないし、なまえさんが覚えてないのも仕方ないですけど……でも、その時から追いかけていたんです。ずっとアナタのことを」

すり、と優しく私の耳元を擦る王泥喜くんの親指に、思考がフリーズした。
擦られるたび、電気が走ったみたいに目の前がくらくらする。いつもの穏やかな彼とのギャップに、心臓が締め付けられるような感覚がした。

「なまえさん、アナタが好きです」

掠れた声で耳打ちされて、私はようやく実感した。法曹界の同志である前に、弁護士である前に、王泥喜くんは一人の男性なのだと。

「なまえさん、また耳元触ってる。緊張してくれてるんだ……」
「あ、あれ……ホントだ」

出会ってから何度も指摘されている癖が、また無意識に出てしまった。どうして王泥喜くんは、私の感情を見抜くのがこんなに上手なんだろう。

「……やっと、手に入った」

王泥喜くんは不明瞭な言葉を呟いたあと、顔を更に近づけてくる。その表情がとても真剣で、またどきりとした。

○thello