無意識に…


写真を眺めながら思う。俺はただ純粋に、弟として、家族としてあいつのことを好きでいることはできなかったのか。
いつも俺の隣で笑っているその笑顔を、姿を指でなぞった。

「……やっぱり、家出なんかするんじゃなかった」

そうすれば、コトネに会うことも、惹かれあうことも無かったかもしれない。
後悔ばかりがつのる。

無性に声が聞きたくなった。部屋を一歩出たところで俺は踏みとどまる。
何故か直接会うのは気が引けた。
だって、苦しいんだ。
あいつの目、まっすぐで、透き通っていて、奥底に押し殺している感情を読まれそうな気がする。
気づかれるな、気づかれてはいけない。
頭の中で繰り返される警告。

机に置いてあるポケギアを手に取り、ある番号を探す。
いや、探す必要はない。一番上に、一番最初に目に入るように並び変えてある。

一瞬ボタンを押すのを躊躇ったが、俺は着信を入れる。
数回コールが鳴って、不思議そうな声が聞こえた。

『お前、なに家の中で電話かけてんだよ』
「いや、なんとなく…」
『なんとなくって…俺じゃあるまいし』

そう、ハートはよくなんとなくで行動する。反対に俺は理由を明確にして行動する。ハート以外のことで。

『で、用件は何だ?』
「なんとなくって言っただろ」
『そうでした。で、何?俺と話がしたいわけ?』
「ああ、まあ…そう、だ」

呆れたように息を吐くハート。表情は見えないが、頭に浮かぶ。
ハートは今パソコンをしているんだろう。ぱちぱちとキーボードを叩く音がかすかに聞こえる。

「株でもしてるのか?」
『少し前まで。今はちょっと敵会社の情報を探してる。ハッキング?だっけ、それで』
「おい、あんまり危ないことはするなよ。また命が狙われるかもしれねぇぞ」
『うん、気をつける』

そういう間にも危険なところに足を踏み入れているんだろう。俺には手伝うことも、手を出すこともできない。
それが、次期社長と、そうでない者の違い。

「俺さ…お前のことが好き」
『……』

しまったと思った。つい零れてしまった言葉。無意識だったせいで一体どのくらいの大きさで言ったのかも分からない。

『それさ、恋愛的な意味で?』
「……!か、家族的な意味でだ!!」
『…そう』

焦る。冷や汗が、握りしめる手が汗で滲んでいく。心臓もバクバク言っていて、音が電話口を通してハートに聞こえてしまうんじゃないかと…。

『もう寝なよ、お前、朝弱いんだから』
「うるせぇ…」
『拗ねるなよ。…俺も、ソウルが好き』

そこで電話は切られた。心臓に悪い切り方だ。ハートの言った好きが、一体どういう意味なのかは知らない。
しかし、それでも俺は嬉しくて、嬉しくて。ポケギアを握り締めてベッドに横になる。



「ったく、ソウルは嘘が下手だな。そうか、ソウルは俺のことが好きなんだ。……恋愛的な意味で」
閉じたポケギアに小さくキスをして、机に置いてある写真へと視線を注ぐ。
そっと手を伸ばし、先ほどの電話の相手の姿をなぞった。


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