依存か愛か


日は沈み、空は漆黒の闇に覆われた真夜中。この部屋だけはまだ明かりがついている。
ソウルは何もすることなく、ベッドに寝転がっている。しかし、このベッドはソウルの物ではない。
ベッドの持ち主は今風呂に入っている。
こんな夜中に入ることはないだろうと思うが、ソウルはそれを言えない。
この家の家事はほとんどその人がやっている。ソウル、シルバーは家事はほとんどできない。
ソウルは皿を運んだり、手伝いができる程度だ。

「あれ?ソウル、今の時間はいつも勉強してなかったけ」
「たまにはいいだろ」

ベッドの持ち主、ハートが帰ってきた。手ごろな椅子に座り、ドライヤーを手に取る。
髪を乾かすのだろう。

「貸せ、俺がやってやる」
「じゃあ頼む」

ソウルはハートからドライヤーを受け取り、スイッチを入れる。
ブオーという音とともに熱風が出される。
ハートの髪を乾かすソウルの手は至極優しそうだった。
髪の長いシルバーに合わせて、シャンプーは女物を使うこの家。ふわっと香ってくるシャンプーの香りはソウルの鼻をくすぐる。

「…髪が細いな」
「そうか?でも毛先ははねるぜ」

ソウルがはなった言葉にハートが返す。そしてすぐ途切れる会話。この二人にとって沈黙はそう嫌なものではない。

細い体だ…。
ソウルは思った。見た目はハートもソウルもあまり変わりはないが、触れてみれば分かる
それなりの筋肉がついた体、余計な肉はなく、白くほっそりとした体。
腕なんかは力を入れれば折れてしまうのではないか、と思ってしまう。

「終わったぞ」
「うん、ありがとう」

ドライヤーを元の位置に戻し、ソウルの座っているベッドの上に上がるハート。
自然とソウルの隣に座る。
座るときはいつも隣。それがこの双子の習慣であり、脳に記録されている動作でもある。

双子であるが故に、依存があるのは仕方ないと思う。
しかし、どちらもお互いに依存していることに気付かない。
小さい頃からハートを守ると口にし続けていたソウルは、
今でもハート、ハートと。
ハートは彼女のいる身でありながら、口にすることの多い名前は
ソウル。

完全なる依存。しかし、それは本当に依存なのだろうか…。
そこに別の感情は紛れていないのだろうか。
もしあったとしても、それに気づくことを恐れているのだろう。気づいてしまったら最後、今の関係には戻れない。
ただの双子ではいられない。

しかし、ソウルは言った。

「お前が女に生まれていたなら、コトネと恋人になることはなかったんだよな。そうすればお前に近づくのは男ばかり。汚らしい男どもから、俺がお前を守るのに、…どうしてお前は男なんだろうな」

ハートは目をそらすわけでもなく、じっとソウルの方を見ていた。
ふっ、と表情を綻ばせ、ソウルの言葉に答える。

「そうだな、そうだったら俺はただ、お前に守られていればいい。女は強い。けれど、弱い。ソウルだけが、俺の隣にいるような、そんな気がする。兄貴もヒビキも、お前以外の男は俺の傍にはいないんだろうな」

男であることを否定されても怒らないハート。
この空間に、たった二人だけ。その時だけ、ソウルはハートを抱きしめる。ソウルから抱きしめるのはこの時だけだ。
男とは思えないその細い体を抱きしめる腕に、言えない想いを込める。




俺だけのものだったらいいのに…。



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