スッパリザックリ at night


ハートが左手に怪我をした夜、ソウルはこれでもかと言うほどに世話を焼いていた。

「俺が持つからお前は何も持つな!!」
「右手は怪我してないんだからいいだろ?」
「ダメだ。お前は手元を見ない癖がある、何かの拍子に持っていた物を左手に当てたら大事だ」

ハートが持っていた物を全部奪い、自分が持つ。
ハートはちょっと不満そう。本人もここまでの大怪我になるとは思っていなかったのだろう、恨めしそうに左手を見つめていた。

「風呂はどうするんだ?」
「そりゃぁ入るに決まってるだろ」

荷物を置いてきたソウルがリビングへ戻ってくる。
次の問題はどうやって風呂に入るか…。
普通通りに入ればいいのだろうが、いかんせん左手は使えない。

「湯につけるのはNGだろうな。一人で入らない方がいいんじゃないか?」
「ちょっとぐらい濡れてもいいんじゃない?でも、ハートだけだと濡らしかねないよね」

前者はシルバー、後者はヒビキの意見。
それを聞いていたソウルが出した答え。それが…

「俺が一緒に入ってやるよ」
「ええぇっ!?」
「…なんだよ」
「い、意外すぎてびっくりしただけ…あはは」

そんな二人を見るシルバーとヒビキの目は生温かい目だ。
自分から率先して入ると言ったソウルを優しい子だなぁと言った感情と、この溺愛というか過保護っぷリというか…常に隣に立っているソウルに若干引き気味な感情の入り混じった目をしていた。

風呂場に移動した二人。

「脱がしてやるよ」
「じ、自分で脱げるって!!」
「ほら両腕上げろ」
「…」

つい両腕を上げてしまうハート。その隙に素早く脱がす。

「次は下だな」
「ちょ…、まっ…、わあぁ!!」

そんなやり取りはリビングまで聞こえていて、シルバーとヒビキはため息をついていた。
そのあと笑いだす。が、奇声が聞こえればまたため息。
先に風呂をあがったのはハートだった。
ソウルが出てくるのを待つ間にシルバーがハートの髪を乾かす。

「どうした、なんだか微妙な顔をしているぞ」
「一人でできるっていったのに…」
「なにがだ?」
「体洗うの!!髪はさ…、別にいいけど…」

ブツブツ文句を言うハートの頬が薄っすらピンク色に染まっているのは風呂上がりで火照った体の所為か、それとも別の理由なのか。

「包帯、やっぱり濡れないっていうのは無理だったな。取り換えようか」

ハートの髪が乾くころにはソウルも風呂からあがってきた。迷うことなくハートの隣に座る。
シルバーが少しずつ包帯を取って行く。包帯が取れたら次はガーゼ。
神経を集中させ、慎重にどけて行くがハートは痛そうに顔を歪めている。

「…これ、傷でかくねえか?」
「何針縫ったんだよ…」
「さあ…。まだ血が出てる、ちょ、ソウル…今は指先も触んな。響いて痛い」
「シルバーは触ってんじゃねえか」
「それは包帯を変えるためだろ。これでも痛いの我慢してんだから、これ以上痛くすんな」

少し強い口調で言えば触らなくなるソウル。結局はハートに頭が上がらないのだ。
逆を言えば、ハートもソウルに強く言われれば頭が上がらない。
力関係はどちらが上なのか分からない双子だ。

「終わったぞ。傷跡が残りそうだな…、それ」
「そうだなぁ。以前のも残ってるし、これは目立ちそう」
「…どうにかできねぇのか?」

じっと左手に視線を向け、顔をしかめているソウル。
困った風に肩をすくめるハート。傷跡が残らなかったらもはや奇跡だ。
左手を刺激しないよう大人しくしておくべきだろうが、ハートはそんな子じゃない。

「左手使わなくてゲームできるかな…」
「それは無理じゃない?ソウル、手伝ってあげなよ」
「そうは言うが…」

ソウルはハートの方を向く。
一方ハートは左手が使えないならと使った物は、

「お、難しいな…、格ゲーにするんじゃなかった!!うわっ、この禿、死ね!!」

右手と足をフル活用。主に指。
そして慣れない操作に苛つき、非常に汚い言葉を連発する。
その時シルバー、ソウル、ヒビキは悟った。
目の前にいる人物こそまさに人間の皮を被った猿じゃないのかと…。


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