スッパリザックリ


あぁ、遂にこの日が来てしまった…。
家庭科の授業内容が被服へと変わる時が…!!

被服の時間では以前、指や掌をたち鋏ですっぱりザックリ切っているし、針で指をブスブス刺すし。
縫ったこともあったなぁ…。
ソウルは例の如く、面倒な授業はサボる。現在進行形でサボっている。

高校にもなればボタン付けはできて当然。いきなり鞄作りにはいるみたいだ。トートバックのようだが、刺繍したり、ポケットを付けたりと工夫を施さないといけないらしい。
トートバック本体、いや、トートバックの型通りに布を切るのすら危ういのに、無理に決まっている!!

「各自実手順通りに作業を進めてくださいね」

先生のその言葉通り生徒は作業を始める。
紙に書いているサイズを測り、布に書き、たち鋏を構える。

(落ち着け、落ち着いて作業をすれば切らずにすむ、多分…)

深呼吸をし、右手に神経を集中させる。

ザクザクと慎重に鋏を動かす。
他の生徒と比べてかなり時間はかかったものの、自分にしてはうまく切れた。少し指を切ってしまったのが惜しいけどな。

俺はほっと息をついて、右手に鋏を持ったままでいることを忘れていた。

「……っ!?」

右手を動かした拍子に鋏の刃の部分が左手の上をなぞった。
掌から手首にかけておよそ10pくらいだろう。綺麗に裂けていた。

「……い、」

激痛に声が出ない。溢れ出てくる血を止めようとハンカチをあて、上から握るようにして押さえつける。

「せ、先生っ!鋏で手を切ったのでちょっと保健室に行ってきます…!!」

俺は走って保健室へ向かった。

「…これ、切ったにしては血が…出過ぎじゃない?」

ヒビキがハートの座っていた席に行き、顔をしかめる。鋏、布、床に血が付いていた。

「先生、ちょっといいですか?」

家庭科の先生を保健の先生が呼ぶ。
戻ってきた先生の言葉にヒビキ達は声が出なかった。
被服の授業は午後にあったため、ソウルは放課後になってようやく戻ってきた。

「……ヒビキ、ハートは?」
「ハートなら被服の授業で手を切って病院に行ったよ」
「…!? それは本当かっ!?」
「本当だよ。ほら、シルバーさんが慌ててる」

教室から慌ただしく出て行くシルバーをソウル達は追う。
向かう先はハートが行った病院。

「ハート…っ!?」

診察室に入ればハートはソファーに寝転がり、左腕を投げ出していた。
左腕には包帯が頑丈に巻かれ、事の大きさを思い知らされた。

「傷が結構深く、大きなものだったので傷口を縫っておきました。今は麻酔が効いて左腕の感覚はありませんが、時期に戻ります。
あまり傷を刺激しないようにしてください」

医者からの注意をシルバーが受けている。
その間ソウルはソファーの横に座り込み、包帯の上をそっと撫でる。

「痛いか……?」
「今は痛くない。それより、眩暈がしてさ…」
「眩暈?」

見当違いな答えにソウルは目を丸くする。

「あぁ、それは仕方ないよ。切った場所が場所だからね…出血がわりと多くて、貧血だろう」
「貧血…」

輸血を検討したが、傷口は塗ったばかりな上に出血は微量ながらまだ続いている。

「血が完全に止まったらでいいんじゃないか?」
「彼がそれでいいなら構わないよ」

シルバーと医者の視線がハートへ注がれる。

「……? どっちでもいいんだが」
「どっちでもいいことないだろ!? そんな大怪我して…っ!」
「はいはい…」
「ば、馬鹿野郎!! 左手を振るな!」

そんな様子の二人を見て苦笑をするシルバーと医者。ヒビキはその光景を動画撮影中だ。
さすが双子のパパラッチ。

しばらくはハートが家事をできない。
ヒビキがいるおかげで洗濯物はそこそこ片づくが、食事はお弁当を買ってきたり、カップ麺が多くなり、健康面を気にされることもしばしば…。
シルバーはハートに二度とたち鋏を持たないよう必死の形相で言い聞かせたようであった。

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