もしも出会わなければ…。


今の俺は比較的明るい、いや、結構明るい性格だと思う。これもコトネに出会うことができたからのこと。
孤独に潰されそうだった俺を救ってくれたのはコトネだ。
もし、もしも俺がコトネに会わなかったらどうなっていたんだろう。ふと疑問に思った俺はそれについて考えてみることにした。



「シルバーもソウルも後を継ぐ気配はない。ハート、お前しかいないのだ。自ら引き受けた以上、…やめることは許さんぞ」
「はい…“お父様”」

呼び出された後、部屋に戻った。ただ広いだけの部屋。
昔は、ここにソウルや兄貴が遊びに来たりして賑やかだったのに、今は…静かだ。

「……なんで、誰もいないんだろう」
「母さん…、どうして、どうしてこの家はみんなバラバラになったんだ?教えてよ…、誰か」

しかし、答えてくれる人はいない。
母さんの死、それがすべての始まりだった。

「俺は家を出る。じゃあな」
「ま…っ!」

止める間もなく閉められたドア。無力だ、俺は。家族が崩壊していくことに気付いていながら、何もできなかった。
その場に崩れ落ち、ただ一人、涙を流した。

俺が進学した中学は、企業や家本の御曹司や令嬢達が通う所。
毎日が腹の探り合い。あわよくば敵会社等を潰してしまおうとたくらむ者もいた。
親父の会社の後継ぎが俺だということもその社会の者たちに知れ渡っている。
そして、俺以外が後を継ぐ気がないということも。
つまり、俺を消してしまえば会社の後継ぎがいなくなるということ。
その時からだ、イジメに似た、いや…それよりももっと悪質なこと。命を左右された事も度々あった。

それをソウルや兄貴に打ち明けようと思ったことは一度もない。
知られたくない。

薬を常時服用していることを生徒達は知っている。
何度隠されて危ない状況になっただろうか…。そう、当時は学校中の生徒全員が敵だった。
それほどまでに大きな会社だったのだ、親父の会社は。
この時コトネに会ったのだ。だがあの時、曲がり角を曲がらなかったら?真っ直ぐ家に帰らなかったら、俺はどうなっていた…?


『体は大丈夫か?』
「大丈夫だよ」

電話越しだから顔は見えない。俺の表情は笑っていない。でも、声だけに表情を付けている。そうしないと、ソウルに怪しまれる。
俺は自分を偽るようになっていた。
俺の脳に刻まれたこと。

“世界に味方など一人もいない”

双子であるソウルでさえそうだ。一番近くにいたのに、何一つ気付いていない。俺が、どれだけ助けを求めても、隣にいないのだから。

「ハート、勉強の時間だ」
「今行くよ」

着信を切り、軋む体に鞭を打って部屋を移動する。
何にも執着しない。どうせ裏切られるんだ。
もう散々だ、こんな思い。人とか関わらなければ…こんな思いはしないですむのかな…?

苦しい、息が詰まる。
必死に意識を繋ぎとめ、ポケギアに手を伸ばす。

「ソウル…、俺、」
『悪い、今修業中なんだ。後でまたかけ直すから』

一方的に着信が切られる。忙しいんだ、ソウルも。そう自分に言い聞かせる。
しかし、その後連絡が入ることはなかった。

「……嘘つき、もう…誰も信じるものか…っ!!」

ポケギアを壁に叩きつけ、破壊する。
俺は完全に心を閉ざした。


「ハート…、ただ、いま」
「……おかえり、ソウル」

仮面をかぶり、偽の笑顔を作る。もはや、本当に笑うことなど俺にはできない。
ソウルにかける言葉、全て嘘。
ただ一つだけ、本当のことを言おうか…。

「俺さ、もう…生きるのに疲れた」

俺は生への執着すら、失ってしまった―――――。



「なあ、ソウル、コトネ。…ありがとう」
「なんだ、急に」

目を丸くし、俺のほうを見るソウル。

「いや、言いたくなったんだ」
「変なハート」

目を細め、くすくすと笑うコトネ。
もしもを考えることで分かった。
二人が隣にいることがひどく幸運で、幸せなことなんだということが。
今の俺が、一番俺らしいということも。

「ありがとう」をいくら言っても言い足りない。
俺は、二人のために生きよう。
返しきれない感謝を、生きることで、笑うことで二人に。

今の関係は複雑だけれども、俺にとっては幸せな関係。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
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