01


本当に久しぶりのことだ。ハートが入院したのは。
中学の頃から、一旦は良くなっていた体調がまた悪くなりだしていたらしい。
原因としては周りの環境が関係していたようだ。
その中に俺やシルバーも入っているんだけどな。

一週間前の夜、熱を出して寝込んでいたのだが、急に咳き込みだした。俺達は喘息だと思ってそれ用の薬を使い、呼吸を落ち着かせようとしたが、一向に良くならない。
ぜー、ぜーと苦しそうに呼吸を繰り返し、時折ひゅーっと喉を抜けるような呼吸までしていた。
ヒビキがもしかしたら何か別の病気なんじゃないかっと言いだし、救急車を呼び、病院へ行った。

ICUに入れられていくのを見た時、血の気が引いた。
ただのひどい喘息だ、熱が出たのは風邪が原因で…、他の病気じゃない。そう自分に言い聞かせるしかなかった。
どのくらい経っただろう。ほとんど明かりのない待合室で、医者に呼ばれるのを祈る思いで待っていた。

「ご家族の方、どうぞこちらへ」

ICUから出てきたハートの主治医に呼ばれ、別の部屋へ誘導される。

「どうやら、風邪ではなく肺炎のようです。発熱と咳を伴いますから…、あの子も分からなかったのでしょう」
「幼少の頃よりは良くなっているとはいえ、一番良かった頃と比べると、今の方が悪い」

はっきりと告げられた。一番良かった頃…おそらく小学校高学年の辺りだ。
元気そうにしていても、本当は元気じゃなかったのかもしれない。昔より、隠すことが上手くなっているから…。
それでも思い返せば、態度で分かったはず。
咳をする時胸を押さえていた事、呼吸がおかしいとも言っていた。全身がだるいと言いながら家事をしていた。
それをただの体調不良で片づけてしまった俺の責任だ。
医者になるって決めたのに…、こんなんじゃなれっこない。

「容体が悪化する可能性もあるから、このまま入院させます。いいですね?」
「お願いします…」

医者の問いかけに答えたのはシルバーだった。
その後、ハートはICUからRCU(呼吸器疾患集中治療室)へ移された。
大きなガラスから中を見ることができる。
ベッドに横たえられているハート。薬により今は呼吸も安定している。
俺と同じ、赤い瞳は閉じられていて、二度と開かないんじゃないのかって考えが頭のどこかにあるのだろう。
何とも言えない恐怖が俺を襲った。

「一度帰ろう、ソウル」
「このままここでじっとしていても、僕らに出来ることはない。自分を責めていたって、無駄だよ」

何もできない、無駄。ヒビキの言葉は俺に重くのしかかった。
タクシーを呼び、家へ帰る俺達。慌ただしく出てきたため、何かと散らかっている。
ある程度片づけて俺達は各自部屋に戻った。



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