*バカップル *李啓
オーラ。というものはたとえ目に見えずとも、なんとなく感じ取れてしまうものである。例えば幸せいっぱいのリア充オーラだとかは下手をすれば、目で認識できてしまう場合もある。ピンク色のハートが飛び交いそうな……そんなものは博和は嫌というほど見てきた。
他ならぬ隣席の友人のおかげで。
そんなお隣席の友人である松田啓人は、木製の机に頭を突っ伏して死んだように動かない。眠っている訳ではない。落ち込んでいるだけ。
啓人の周辺だけ、キノコが生えてきそうなレベルのじめじめしたオーラが広がっているのだ。
耳を澄ませば「やっぱり僕なんか……」とか「もう終わりだ」なんとか絶望に近いつぶやきが聞こえる。
理由はわかっている。愛しの彼氏であるジェンと喧嘩したのだ。
なんでも、ジェンが他の女子に告白されたのが原因だそうで、あーだこーだのすったもんだの末にこうなっているらしい。
今朝からこんな状況。ただいま中休み。他の生徒たちは天変地異の前触れだとでも言いたげに、啓人を遠巻きにしている。唯一の救いは、ジェンが他のクラスだという事だ。
「啓人……そんな大げさにすることないと思うぞ」
「博和になにがわかるのさ!」
慰めようとして放った言葉はから回る。
涙目の啓人に思いっきり睨まれて、和博は大人しく口を閉じた。
(正直、めんどくさい)
そう思ってしまうのも、まぁ無理はない。いつも通りの幸せオーラ振りまいている啓人も、それはそれでウザいのだが。
「早く仲直りすればいいのに」
樹莉と一緒に弁当を食べに来ている、隣のクラスの留姫は啓人にそうぼやいた。どうやらジェンも現在は啓人と同じ状況らしい。
「それができたら苦労しないよ……」
「そうしてうじうじしてるものどうかと思うけど」
「そ、そんなこと言われても……」
留姫も教室の席はジェンの隣らしいので博和と同じような心境なのだろう。言葉の節々に早く何とかしなさいと言う本音が垣間見える。
じめじめしたオーラよりも、いつものピンクオーラの方が何百倍もましだ。
しかし、博和と留姫の意見が合うなんて珍しい。そんなことを思い携帯を閉じて、樹莉は口を開く。
「でも、たぶんそろそろ耐えられなくなってこっちに来るんじゃないかな?」
「なんでそう言えるんだよ」
「あの二人は私たちが見えてる以上にバカップルだから」
そう言うが否や、廊下から慌ただしい足音ともにジェンが教室へ入ってきた。
「啓人、ごめん!」
びっくりしている他の生徒には目もくれず、隣に座っていた博和を押しのけてジェンは啓人に抱き着いた。
啓人は啓人で「ジェンのバカー!」と泣き出す。その様子を見る限り、あと数分もすれば仲直りするだろう。
「……解せん」
押しのけられた博和は、そんな二人を見て小さく呟いた。
お騒がせカップルと被害者たち
(リア充爆発しろ……)
(言うだけ空しいから止めておきなさいよ)
藤枝静瑠様へ捧げます!
20120106