*ボカロネタ *シリアス *拓ニ


 本当の両親と笑いあう道行く幼い子供を、羨ましいと思わないかといえば、嘘になる。
 同級生たちが楽しそうに笑いあっているのを、羨ましいと思わないといえば、嘘になる。
 羨ましいけど、俺には必要ないのだと思い、ただ眺めるだけだった。
 そう言った考えは、俺から人を遠ざけて、気付けば俺の回りには誰もいなくなっていた。それは例えれば、一人きりの城。あまりにも空虚で愚かな俺だけの城。
 ある意味で望んでいたものだったから、何の不満もありはしない。
 でも、その城の扉を閉めることだけはしなかった。それは幼い俺のプライド。

 ある日現れたお前は、俺に向かって笑いかけてきた。
 明るく太陽のようなお前は、俺の望む全てを持っていた。
 たくさんの友人、暖かい家族に、素直な心。何もかもが羨ましかった。
 あろうことか、そいつはためらいもせずにあっさりとレンガの壁を乗り越えて城の中に入ってきた。そして俺に触れて、驚いた顔をして抱き締めてきた。

「悲しいくらい、冷たいな」

 それは俺には暖かすぎた。

「ずっと寂しかったんだな」

 その日溜まりのような優しさに、怯えて離れて飾って測って焦って乱れて貶して、俺は逃げ出した。

 家族愛を羨んだ。
 友愛を羨んだ。
 兄弟愛を羨んだ。
 愛情全てを羨んだ。
 小さな愛が折り重なって、大きな愛になるのを羨んだ。
 城の扉を閉めたのは、俺のプライドだ。

「お前が好きだ」

 そう言って、俺の城に居座るお前の存在に戸惑った。惜しげもなく与えてくる初めての愛が暖かすぎて、怖かった。

 同情なんかはよしてくれ!
 お前に俺の心がわかってたまるか!

 握ってかじって零れて暴れて、それでもお前は俺の手を掴んで離しはしなかった。
 孤独に慣れ親しみ凍ったこの身が、太陽のようなお前の愛に溶かされるのは許されない。
 だからなおのこと、無意識にお前を必要としていた俺の心が許せなかった。
 だからお前の愛に答えなかった。それでも惜しみ無く愛を与えてくるお前に、俺はずっと素直になれなかった。
 その強がりはどのくらい続いただろうか。それはあまりにも幸せな時間だった。

 そしてある日、お前は突然俺の前からいなくなった。

 お前に隠し事をしていたな。
 俺は傷付くのが嫌だった。失うのが怖かった。だからお前に伝えられなかったんだ。
 俺はお前を愛していた。
 お前と、永久の愛を望んだんだ。
 でも最終的に残ったのは、お前への永遠の愛だけ。
 俺ははじめて、誰かのために泣いた。
 こんなことになるのだったら、ちっぽけなプライドなんてかなぐり捨て、扉を開ければよかった。
 お前に縋って、お前の手を握って、お前と笑って、お前と紡いで……

「愛せば、よかった……」

 ふと俺に影がさす。見上げれば、失ったと思った笑顔がそこにあった。

「やっと聞けた。輝二の本音」

 何故いなくなったとか、何処にいたとか、たくさん聞きたいことがあった。
 でもそれは久しぶりの温もりで全部溶けていく。
「ばか、やろっ」
「あー、泣くなって」

 与えられたぬくもりは、もう俺が孤独であることを許しはしないだろう。


孤独な狼は愛を知りました。
(愛してる、拓也)
(俺もだ、輝二)


ボカロネタです。
10111217 BGN The_beast

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