*ちょっとした流血描写 *シリアス *拓二




 拓也は幼い頃から、物を大切に扱うことが出来ない人間だった。否、彼なりに大切にしてはいるのだ。ただ、皮肉なこと大切に大切にすればするだけ、彼の物はボロボロになり壊れていった。
 別にそれは子供として珍しいことではない。そうして子供は学んでいくのだから。拓也もすぐにボロボロになる、自分の所有物の扱いについて悩んだ。時には「すぐに壊れるほうが悪い」と衝動的に壊すこともあった。
 そんな拓也が自分の異常性に気が付いたのは、小学生にはありがちな初恋を経験したときだ。
 この時期の男の子にはよくある「気になる子をいじめたい」と言う普通の衝動。もちろん、拓也にもそういう感情はあった。しかし、拓也は普通のソレとは少々違った。彼に芽生えた衝動は「いじめたい」なんて可愛らしいものではない。「壊したい」と言う暴力的な衝動だった。
 壊したい、泣かせたい、傷付けたい。自分の所有物としての証を刻み付けたい。そんな衝動ばかりが溢れ出てきたのだ。
 ソレと相反するようにある、拓也のもつ正義感や道徳心がその衝動を辛うじてだが、押し込んでいた。
 それが自分の所有物に対する「壊したい」という衝動にとてもよく似ていると理解したのは中学生になってからだ。

 拓也は中学生に上がって、人生で二度目の恋をした。
 相手はそこらにいる女子よりもよっぽど綺麗な顔立ちをしている男だった。
 名前は源輝二。拓也の親友とも言える相手である。女みたいな顔立ちをしているが、中身は下手な男よりもよっぽど男らしい芯の強い少年だ。
 最初は自分の感情に戸惑った。まさか男に惚れ込むなんて誰が想像できようか。
 だが、そう思い悩んだのはほんの僅な期間だ。「好きになったもんは仕方ない」と割り切るのも早かった。
 もとより互いに男どうし。拓也はいつか消えてなくなる感情だと、輝二に自分の思いを告げるなんて欠片もなかった。このまま親友という立ち位置で満足しようと思ったのだ。
 しかし、そう決心して間もなく、鎌首をもたげた「壊したい」という衝動が拓也を苦しめはじめた。
 ソレは日に日に、源輝二という存在と触れ合う度に大きくなっていく。それでも溢れだしそうな感情を必死に抑え、拓也は輝二の親友を演じ続けた。
 輝二も気付かない、とても不安定な関係が崩れさるのは唐突だった。

「悪い。好きな奴がいるんだ」

 幸か不幸か。拓也は人気のない廊下で、教室から響いてきた輝二の言葉を聞いてしまった。
 少しだけ開いていた扉から覗いた教室には、輝二と前々から彼にアピールをしていたクラスメートの女子がいた。おそらく、拓也が日直の日誌を提出すために職員室に出払い、一人になった瞬間を狙っての告白だろう。
(輝二に、好きな……奴?)
 心臓が液体窒素で凍らされたかと錯覚できるほどに、一瞬で身体の体温が下がった。身体中の血液が凝固したかのように、自分が生きている心地がしない。ただ鷲色の瞳を見開いて、輝二の言葉を一字一句反復する。
「……誰なの?」
 拓也の疑問を代弁する、泣きそうに震える女の声に嫌悪が沸き上がった。
「言えない」
 そうハッキリと言い切った輝二。それに納得できないと言いたげに、女は輝二の腕をつかむ。
 その瞬間、冷えきった体温が沸騰するかと思った。輝二に触れるなと、声にならない悲鳴が吐息となって吐き出される。
 女は輝二に何かを迫っていたが、最早女の声は拓也の耳には届いていない。
 一度深く息をすって、中途半端に開けられた扉をガラリと開く。その音に、女は焦ったように輝二から身を引き、輝二は安堵の表情を浮かべた。
 女は目に涙を浮かべながら、拓也の横を通りすぎて外に出ていく。ばたばたと遠ざかっていく足音を聞きながら、拓也は後ろ手で扉を閉めた。
「お取り込み中、悪かったな」
「いや。助かった」
 そう言って肩をすくめて安心したように笑う。あぁ、頼むからそんな風に笑いかけないでくれ。泣かせてやりたくなる。
「……輝二の好きな人ってさ」
「っ! 聞いていたのか」
 努めていつもの調子で問う拓也に、輝二の顔にさっと赤みがさす。何事も冷静で淡白な輝二のはじめてみる表情だ。
(輝二にこんな顔をさせる奴がいる)
 そう思った瞬間、心の底から泡のように浮上してきたのは、今まで押さえ込んできた衝動だ。泡は水面を揺らし、水に波紋を広げるかのように、もうギリギリの心を荒れ狂わせていく。
「へぇ……誰なんだ?」
 必死で心を静めながら、拓也は問う。しかし、輝二は顔を赤くしたまま「いえない」とゆるゆる首をふった。
 瞬間、パチンッと自分の中の何かが、シャボン玉のように弾けた音がした。
 溢れだした衝動のままに、拓也は輝二の胸ぐらをつかんで床に引き倒す。背中を強かに打ちつた輝二は息を詰まらせた。何が起こったかわからないと言った感じで自分を見上げる顔が、拓也に愉悦を与える。
「拓也?」
「やーめた……」
 口の端を吊り上げるだけの歪んだ笑顔に、輝二は言い様のない恐怖を感じのか、一瞬だけぶるりと震えた。
「もう我慢するの、疲れちまった」
「何を言って……ひっ」
 少しだけ乱れたワイシャツから覗く、白い首筋に突然拓也の舌が這わされて輝二は小さく悲鳴をあげた。
(……もっと聞きたい)
「やめ、ろ!」
 暴れる両手を自分の手で木目の床に縫い付けて、抜け出そうともがく足を体重をかけて押さえつける。
「輝二、もっと泣いて」
 うっとりと、拓也は崩れた輝二のネクタイを乱暴に剥ぎ取り、飢えた野犬のように目の前の首筋に噛みついた。ぶつりと肉が裂ける音がして、鉄の香りが口内に広がる。呻き声のような悲鳴が上がり、輝二はショックからか抵抗を止めた。それを見て、拓也はぞくぞくとしたものが背筋を這い上がってくるのを感じる。
 溢れてくる血を丹念に舐めとる間も、輝二はただ身体を強ばらせて小刻みに震えるだけだ。
「俺が怖いか?」
 顔を上げて輝二の瞳を覗き込む。深い蒼の双眸に自分しか写っていないという事実が、限りなく嬉しくて嬉しくて仕方がない。愛し気に輝二の頬を撫でれば、堰をきったかのように輝二の目から涙が溢れだす。
「お前は、……俺が、嫌いなのか?」
 震える声でそんな馬鹿げた問いを投げ掛けてきた輝二に、驚きと苛立ちを感じた。ぎりぃと拘束する手に力が入る。
「俺がお前を? そんな馬鹿な。むしろその逆だ」
 手首の痛みに輝二は顔を歪ませた。絶えず涙が流れる目尻に一つキスをおとす。
「お前が好きで好きで堪らないんだよ」
 輝二と言う存在の全てが愛しくてたまらない。溢れだした衝動はもう押さえられないし、押さえる気も毛頭ない。ただ目の前の愛しい存在を愛でていたい。
「だからさ……お前が他の奴の手に渡るぐらいなら、俺が全て壊してやるよ。心も身体も、お前の存在全ては俺のものだ」
 誰にも渡しはしない。
 深くキスをした時、輝二は泣きながらも黙ってそれを甘受していた。

 そんな彼の心の内を、拓也まだ知らない。

思いは高く舞い上がり、弾けた
(壊しすしか愛し方を知らない哀れな男)
(それでも俺はお前のことが……)

clutchの管理人、夏水柑様に相互記念品として捧げます。鬼畜拓也とかおいしいリクエストもらいましたが全然拾えてねぇ(^p^)
あと相互記念なのに話暗ぇ……orz
書き直しは年中無休で受け付けるよ!
20111216

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -