*臆病な啓人と、大人なジェン *シリアス *李啓
とても大切なんだ。
大切すぎて、手を伸ばせば壊れてしまいそうで、消えてしまいそうで怖かった。
僕は無くすことにばかり臆病で、ずっと逃げて逃げて、そうして君を傷付けていることをわかっていたのに。
僕を許す君の笑顔に甘えたまま、今日も僕は踏み出せずにいた。
「僕は啓人の前から消えないよ」
どうしたらそれを証明できる?
そう言わせてしまうぐらいに、僕は君を追い詰めてしまった。
ごめんね、ジェン。
君は僕が嫌がったり、怖がることは絶対にしない。優しいから。僕よりもずっと大人だから。
「泣かないで、啓人」
僕が触れられるのを怖がるから、君は言葉だけで慰めてくれる。君に抱き締めてほしい。でもそれを怖がり、拒否する僕の心。矛盾。いつまでたっても子供のままの僕。
ギルモンのように、君が突然目の前からいなくなってしまうのが堪らなく怖い。
「僕は、君を泣かせたかった訳じゃない」
わかってる。わかってるよ。
僕は君が好きなのに、君も僕を好きでいてくれるのに、答えられない僕が悪いんだ。
「……ほら」
困ったように笑いながら、君は手を差し出してきた。
「僕はここにいる。幻でもなんでもない。ちゃんと君の目の前にいるよ」
だから、どうかこの手をとって、と懇願に近い言葉に僕は手を上げる。
触れたい、怖い、触れたい、怖い。中途半端に上げた腕はこれ以上動かない。
「大丈夫だよ、啓人」
優しい声が鼓膜を震わす。その声に促されてもう少しだけ手を動かした。互いの指先が触れあった瞬間、引っ込めてしまいそうになった手を君は素早く捕らえてしまう。
「……っ!」
僕の震える手を包む、大きくて固い手はとても暖かくて、君がここにいるのだと確かに証明していた。
「ほらね、大丈夫」
そう言って涙を脱ぐってくれた手も、やっぱり暖かい。
いつの間にか震えは止まっていた。
子供の悪夢は終わりを告げて
(ジェンー……)
(はいはい、泣かないで)
ギルモンがいなくなってから、失うことを極端に恐れるようになった啓人と、根気強いジェンの話。どうも、啓人を泣かせてばっかりな南十字です。
20111213