*12/12で一二の日 *ほのぼの *一二



 ふと、英文を書く手が止まった。ぷつりと途切れた集中力。
 時計をちらりと見やれば、もうそろそろ日付が変わる時刻だった。
「……まだ帰ってきてないのか」
 そう呟いた声は狭い部屋に溶けて消えた。
 水でも飲むか。と立ち上がり、腕を伸ばして凝り固まった身体を解していく。長時間同じ姿勢はやっぱり辛いものがあるな。
 部屋を出て、真っ暗なリビングを手探りしつつスイッチを探す。慣れた家の中では造作もないことだ。
 パッと白い明かりがつく。同居人はやっぱ帰ってきていない。カウンターキッチンに置かれた夕食は冷たくなっている。でも、もうそろそろ帰ってくる気がした。
 俺のこういう予感はよく当たる。それは双子だからかもしれない。水だけにしようと思ったが紅茶でも入れてやろうと思い戸棚を漁る。今日はアールグレイでいいか。でも夕飯に紅茶は微妙だから緑茶でいいか。
 ヤカンに水を入れてお湯を沸かす。冷め切った夕飯をレンジに放り込んで温めなおす。
その間に戸棚に保管されていた同居人の手作りのマフィンを取りだした。同居人は「またこんな時間に」と呆れるだろうが、小腹がすいたんだ。仕方がない。心の中で言い訳をしつつラッピングをといて、甘い香りを放つそれを口に入れる。
甘さを噛みしめながらぼんやりと部屋を見渡す。ここに暮らし始めてもう一年はたつが、未だに不思議な感覚は拭いきれない。
 双子の兄なのにそういう感覚を抱くのもおかしな話だが、そもそも小学5年生までは互いの存在すらしらなかったからな。こうして一緒に暮らし始めるなんて、10年前だったら夢にも思わなかっただろう。
 ヤカンが甲高い悲鳴を上げる。火を消して透明な急須にお湯を入れた。鮮やかな緑が透明な水を染めていく様は、見ていて飽きない。その間に、レンジも電子音を鳴らす。
 ふぅ、と一息つくと、今度は玄関から扉の開く音がした。
「ただいま、輝二。まだ起きてたの?」
「おかえり、輝一。レポートしてたんだ」
 そんなやり取りをしつつ、輝一が脱いだスーツを受け取ってハンガーに掛ける。
「あ、夕飯あたためてくれたんだ。お茶まで入れて」
 疲れた様にネクタイを緩めて、輝一は背後から抱きついてくる。外にいた体は予想以上に冷たくなっていた。動きづらい、と言いかけた口は輝一の口で塞がれる。別に珍しい行動でもないので抵抗はしない。離れる際に唇を一舐めした輝一は苦笑する。
「甘い。またこんな時間にお菓子食べたんだ」
 好きなのはわかるけど、あまり体によくない。と首筋に顔を埋められる。
「輝一の作るものが旨いのが悪い」
 我ながら子供じみた言い訳に輝一は「じゃあ、もう作るの止めるよ?」と言ってきた。それは非常に困る。
「……夕飯、冷めるぞ」
「ん。わかった」
 話を逸らして輝一を促す。もう一度キスをして着替えるために離れて行った。体温が名残惜しい気もしたが、早く食べてくれないと皿を片付けられない。
 適当に白米をよそって、緑茶をカップに移してテーブルに運んでソファーに腰を下ろす。
「なんか、輝二が俺の奥さんみたい」
「俺は男だ」
 戻ってきた輝一が馬鹿なことを言いながらまた抱きついてくる。
「知ってる。いっそ本当の夫婦になろうか」
「形だけはな。いいから早く食べろ」
「はいはい」
 両手を合わせ、いただきますと言って食べ始める輝一を眺めつつ、俺は緑茶を一口含んだ。
 少しぬるくなったそれは、喉にじんわりとした温かさを広げた。


透明な水に広がった緑
(輝二、料理の腕上げたね)
(輝一が教えてくれたからだ)


大学生輝二と公務員輝一。相変わらずバカップルです。
20111212

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