*年齢詐称 *ほのぼの *タケ大


 ぽてん、と大輔の背後で間の抜けた音がしたのは、デジタルゲートを潜った直後のことだ。
 タケルが後を追ってゲートを潜ってきたのだろうと後ろを振り向くと、そこには見慣れぬ幼子がぺたんと鎮座していた。
 大輔の腰ぐらいの背丈の緑の子供。日を受けて輝くミモザの金髪に映える、鮮やかなシアンの大きな瞳。この色合いは、大輔の知る仲間の一人を彷彿させた。
「……へ?」
 半開きの口から、間抜けな声が零れる。大輔の赤褐色の瞳と、子供のシアンの瞳がかちあった。ぱちくり。二対の瞳が同時に瞬いて、同時に首を傾げた。
「……お兄さん、誰?」
 舌足らずなあどけない口調に「お前こそ誰だ」となんとも大人げない返答をして少し後悔。
 子供は傾げた首を元に戻すと、きょとんとした顔で自分の名前を口にする。
「僕、タケル。高石タケル」
 瞬間、大輔は自分の思考をシャットダウンした。



「タケル小さくなっちゃったー」
「僕は小さくなってないよー」
 小さくなったタケルの頭上で笑っているのは、後から合流したパタモンだ。タケルはパタモンの言葉に頬を膨らまして言い返している。
 同じく後から大輔に合流したブイモンは「ずいぶん印象変わるなぁ」としみじみとタケルを眺めていた。
「で、お前ほんとにタケルなわけ?」
「うん」
 ここに来てから幾度目かの問いだ。小さいタケルは嫌な顔一つせず、パタモンとじゃれあいながら笑って答えている。大輔の知る高石タケルとはずいぶん遠い印象の子供だ。
 タケルがこうなってしまったのは、デジタルゲートを潜ってくるさいに起きたデータバグのような物らしい。先輩組ブレーンの光子郎が言うのだから間違いはないだろう。ほっておいてもすぐに戻るから支障はない。ただ、未来に関する知識は一切与えるなと釘を刺された。注意するに越したことはないのだそうだ。
(こいつがタケルなぁ……)
 たしかに面影があると言えばある。よく見れば、笑った時の顔がそっくりだ。
 いつもいけ好かない奴だと思っていたタケルにこんな可愛らしい時期があったのかと思うと、時の流れは残酷だなと大輔は座り込んだまま一人遠い目をした。
「ねぇ、大輔さん」
 ふと呼ばれて、飛ばしていた思考を引き戻す。気が付くと、タケルが眼前にいた。「うわっ!?」と叫びそうになった声を喉の奥に押し込んで必死に冷静を保つ。「な、なんだよ」と返すと、タケルは大輔の膝に乗り、おもむろに小さな両手を伸ばして、その頬に触れる。
「……何してんだ?」
 むにむに。と効果音がついてきそうだ。タケルは怪訝そうな大輔の表情に気付かず「柔らかそうだったから!」と笑顔で答えた。その無邪気すぎる笑顔に何も言えぬまま、大輔は溜息を吐き、仕返しとばかりに小さいタケルの頬をつつく。
「お前のほうが柔らかいぞ」
「えへへー。大輔さんも柔らかい」
 構ってもらえて嬉しいのか、タケルは楽しそうだ。その笑顔に絆されたのか、「もう少し構ってやるか」と大輔の口も自然と笑みを形作る。ちらりとブイモンたちを見ると、暇になってしまったのか仲良く眠りこけている。まぁ、どの道タケルが元に戻るまでは何もできないからしかたがないだろう。
「ん?」
 タケルに視線を戻すと、その輪郭がぼやけたような気がした。笑う顔はそのままに、ジジッと嫌な音が大輔の鼓膜を震わせる。その直後、ぽんという軽い音とともに、視界が反転した。
「あ、れ?」
 眼前にシアンの双眸が広がった。それは小さいタケルの大きな瞳ではなく、少し大人びた凛々しい光を称える瞳だ。青々しい草の匂いが、鼻をつく。逆光に陰る顔は、困惑の表情を浮かべていた。対する大輔も今の互いの体勢に唖然とタケルを見上げた。
 小さいタケルが膝の上に乗っていたのだ。元に戻ったらどうなるかなんて全く予想していなかった。
「大輔君?」
 大輔は押し倒される体勢になっていた。屈辱的なことに。
 兄譲りの端正な顔が真正面にあり、思わず息がつまる。
 あまりの事態に何も言えない大輔に、事情がよくわかっていないタケルは何を思いついたのか、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

「これは据え膳ってやつかな?」

 その笑顔は、子供のタケルとは似ても似つかなかった。


時の流れは残酷です
(据え膳食わねばなんとやら)
(いいからどけ!どいてくれ!)


ズズ様へ捧げます!大変遅れてしまい、申し訳ありませんでした!(土下座!
20120815

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