*殺伐 *ダーク *闇堕ち太タイ


 今、数多のデジモンの命が世界へと還った。
 膨大なほどの赤いデータ粒子が四散し、天に昇っていく。幻想的であり、おぞましい命の終わり。ほんの一分前までは、形を持って確かに生きていた者たちの、あっけない終焉。
 赤が散る寒々しい薄氷の空から視線をおろし、タイキは自分の手を見た。黒い薄布に覆われたそれは、データの粒子で赤く染まっているような錯覚を覚える。終焉への道筋を引いたのは、間違いなく自分のこの手だ。その手で傍らに控えるパートナーの頭を撫でる。
「こんなものが見たいんじゃない」
 赤く染まった瞳が、熱が引いたように青へと変わる。深海の冷たい青へと。
 この世界では死んだら何も残らない。生きた証など何も残らない。
 見たいのは、すぐに消えるデータなどではなく、生を叫ぶ血だ。その熱を感じて初めて、自分自身も生きているという実感を得る事が出来る。まるでマサルや拓也と同じ野蛮な考えだ。そう思っていても、心の渇望を止めることなどできない。
「人の手によって作られた紛い物の世界」
「だけど、この世界はもう本物だ」
 馴染んだ闇を肌で感じて、振り返った。いったいいつから見ていたのだろうか。手の届く位置で橙茶の瞳を細め、薄笑いを浮かべている太一が立っていた。
「よう、調子はどうだ?」
 そうやって馴れ馴れしく笑いかけてくるその顔が、タイキは嫌いだ。何もかもを見透かしたような瞳も、装った作り笑顔も、見下されているようで目障りでしょうがない。事実、この男はそうなのだろう。タイキの心の内を知ったうえで、自分を飼いならしている。そのくせ仲間ごっこに興じる悪趣味な人間なのだ。八神太一≠ニいう男は。
 特別な存在足る工藤タイキ≠ェ、こんな子供に見下されてたまるものか。先刻の戦いの昂ぶりがふつふつと煮えたぎってくる。
「……ってみればわかるか。ごくろうさん」
 じっと自分を睨みつける鋭い視線に、太一は肩を竦める。わざとらしい労わりの言葉はタイキの神経を逆撫でするだけだ。
「そう怖い顔するなって」
 頬に触れる手は自分と同じだ。生きたデータではなく、確かに温度を持った、血の通った手。
(こいつの血は熱いだろうか)
 湧き上がる衝動のまま、目の前の幼い首に手を伸ばす。タイキの瞳が赤く染まる。太一は笑っている。抵抗する気配はない。
 触れた皮膚は手と同じであたたかく、脈打っていた。これまでも、衝動に任せて人型デジモンの首をつかんだことがある。彼らからはこんな風に脈を感じなかった。
 ぐっと力を入れると、脈が一際大きくなる。太一は表情を変えない。笑ったままだ。何もかも見透かしたような、柔らかい笑みだ。それを見て、背筋に冷たいものが伝い落ちる。
「殺さないのか?」
 無意識の内に力を緩めていたらしい。ハッとしてから反射的にその手に力を入れなおそうとして、できなかった。太一の橙茶の瞳が、いつのまにか赤に変わっている。自分と同じ、鮮血のようなスカーレットの色。背を伝い落ちたものが再び駆け上がる。ぞわりと心を覆ったのは、まぎれもない恐怖だ。
(なぜ手を離した……!)
 感じたものを太一に悟らせぬように、タイキは自分を叱咤した。憎い男を殺す絶好の機会だったと言うのに!
 そんなタイキの動揺を知ってか知らずか、否、知っているのだろう。太一はさらに笑みを深くした。

「やっぱ仲間は殺せないよな」

 そう言って両頬を包む幼い手は、怖いくらい慈愛に満ちていた。


慈愛など知らぬくせに
(いつか、絶対に殺してやる)

長編の闇堕ち設定から太タイ。友達からもらった漫画が元です。あれ?初書き太タイがこんなんでいいのか……?
太一さんは仲間ごっこ≠ェお好きなのです、はい。
20120809

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