*ちょっと暴力 *ダーク *拓二


 真っ白なその部屋の中で、輝二の黒に近い藍色の色彩は現実離れしているようにも思えた。まるで地獄から迎えに来た死神のように。病室にいるからこの冗談は全く笑えないけど。

「……死ななかったのか」

 心配していたとは程遠い声音で、ベットの脇に歩み寄った輝二は拓也を見下ろした。 形のいい唇から出る言葉は、相変わらず辛辣だ。すっ、と細められた濃藍の瞳は相変わらず冷め切っている。怒っているのか呆れているのか、はたまた失望しているのか。最後は絶対にないだろうと断言できるあたり、俺はまだ余裕があるようだ。
「人が苦しんでる時の開口一番がそれか」
「自業自得だ」
 悲しいくらいバッサリ一蹴された。その声音も覚めていて容赦がない。これは相当怒ってるなぁ、なんて頭の隅で思いながら嘆息する。彼の腕の中でガサリと揺れた花束の香りが鼻をついた。薬品の臭いと混ざり合って香水みたいだ。
 輝二は何かを言うでもなく、迷いのない動きでベッドに腰掛けた。二人分の重みで悲鳴をあげるベッドなど意にも返さない彼は、冷え切った表情のまま、何重にも巻かれた胸部の包帯の上に左手を滑らせた。ゆっくりと撫でつけられる手はやはり冷たくて、骨折で熱を持った体は飢えているよのか、包帯越しでもその感触を正確に感じ取る。「くすぐったい」と身を捩ると、折れた肋骨がある場所から全身に激痛が走る。
「――ちょっ、輝二、痛い!痛いって!」
 痛みに悶えていた俺に追い打ちをかけるように、輝二はその左手に体重をかけた。ぐっ、と徐々にかけられていく重みに比例して、声も出なくなる。ミシリ、と体が鳴いた。痛みで滲む脂汗。痛みで朦朧としてくる意識と視界の中でも、輝二の黒い色彩は相変わらずハッキリしていて、やっぱりこいつは死神なのかもしれないと思った。
 でも、輝二が死神なら殺されてもいいかもしれない。最愛の人が死神なんてどこにでもありそうなチープな話だけど、それがお前なら悪くない。手を伸ばして輝二の頬に触れると、罰の悪そうな顔をされた。
「馬鹿か」
 一言吐き捨てられて体が軽くなった。安堵したのと同時に、微かな落胆を感じるから、俺は本当に救いようのない馬鹿なのかもな。
「殺す、気、かよ」
 咳き込みながら言葉だけで反撃しておく。鈍く残る痛みに深く息を吐いていると、花束を腹部に放られる。綺麗な花束は乱暴な扱いのせいで今にもバラバラになってしまいそうだ。
「お前が他人の為に命を投げ捨てるくらいだったら、この手で殺してやってもいい」
「笑えない冗談だな」
 軽口を叩いてみるが、実際、冗談じゃないだろう。こいつはやると言ったらやる男だ。「試してみるか?」と不敵に笑った彼の左手が、今度は首に添えられた。
「忘れるな」
 喉に張り付いた指先に、微かだけど力が籠められる。
「お前の命は俺のものだ」
 長い闇夜の髪が頬を掠め、唇を塞がれる。
 ずいぶんと独占欲の強い死神様だ。そんな事を思いつつ、その後頭部に手を回して強く引き寄せた。


死に損ないに花束を
(こんな状況、看護師に見られたら大変だよなぁ)


誰かを庇って交通事故にあった拓也と、他人の為に命をはった拓也に怒った輝二。
双方に独占欲強いケンカップルって萌えません?
20120727

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