*擬人化&女体化 *本編最終回捏造 *ダスクモン+輝一+レーベモン


 ゆらりゆらりと、体が暗闇に浸っていく。
 じわじわと骨の髄まで侵食してくる冷たさは、鉄に触れた時に感じる体温を奪われるような感覚とよく似ていた。
 やっとの思いで触れることが出来た光は闇に埋もれることなく、一番星の様に煌いている。その輝きは自分の片割れのそれと酷似し、ただ沈みゆく体は無意識の内にそれに手を伸ばす。

――光が、もうあんなに遠い。

 纏わりつく暗闇は水の様に重く、輝一の小さな体に付きまとっている。腕を伸ばすのでさえ、酷く億劫だ。それは遥か天にある光に触れる事すら烏滸がましいと言わんばかりに、闇の深淵へと彼を誘う。
 沈みきったその先に待ち受けているものは死≠セろう。
 もともとすでにそうなっていてもおかしくない彼は、偶然を重ねてデジタルワールドに迷い込んだ。双子の弟に全てを託し、後は死に向かうだけとなった。わかっていても、不思議と恐怖は沸いてこなかった。
「死に恐怖などありはしないわ」
 凍てついた静寂に、針を刺すような声が割り込んできた。聴覚に突き刺さる声は、自分のそれと、そして供に戦った半身のそれとも、質は違うがよく似ている。
 首を微かに動かして見えたその姿は、記憶と少し違っていた。細身の鎧を纏ったままだが、兜は付けていない。顔は晒され、白金の長い髪は、闇の中で曼珠沙華の花の様に広がり、揺らめいている。水の中でたゆたう彼女は、闇にいると言うよりも闇そのものを纏い、同化していると言うような印象を受けた。
――ダスク、モン……
 呟いた声は闇の中で水泡のように消える。それでも目に痛いほどの鮮やかな紅の瞳を持つこの女の耳には届いていた。
「死は、永久の安息。恐怖することがそもそもの間違い」
 沈む体は黒い人骨を思わせる、固い鎧を纏った腕に静かに受け止められた。女の胸部に付いた無機質な目玉は、本物の瞳よりも不気味なほどに爛々と輝く。
「お前は闇だ。この場の闇と同じものを抱えた、闇(わたし)から生まれた悲しき子」
 だから死を恐れることはない。恐怖も苦痛も、ここでは何の意味もない。
 淡々と、しかし子守唄を紡ぐように、ダスクモンはその声を闇に響かせる。それに感情なんてない。少なくとも、輝一には汲み取れなかった。
「死を望むの?」
 触れることが出来た光をかなぐり捨て、運命の道筋を断ち切り、切望した未来を黙殺し、苦しみを壊死させ、犯した罪を忘却し、他者への思いすらも屠り、それらを対価として永久の安息を得る。
 それは逃げだと罵る者もいるだろう。しかし、その死を受け入れる他に道は見えない。
 ただ後悔はたくさんあった。覚悟の上でこの道を選んだが、それでも心の片隅ではまだ生きることを望んでいる。
――死を拒んだら、またあの光にもどれるのか?
 水泡の問い。ダスクモンは「さぁ、どうでしょうね?」と天に視線を向けた。あの光は、先程よりも大きくなっている気がした。その刹那、闇がざわめいてさざめき立ち、渦巻く。驚く輝一とは対照的に、ダスクモンはまったくその表情を変えずに視線を下げた。
「けれど、私はどちらでも構わないわ」
 死(わたし)の元に戻ってくると言うのならば、喜んで迎え入れよう。私を拒み生(ひかり)を望むのならば、その光の中で様々な柵にもがくお前を見るのもまた一興。
 紅が輝一から逸れる。その視線の先を追うと、いつの間にか闇の中に男が立っていた。
 ダスクモンと同じ、赤い月を思わせる紅の瞳を持つ闇の闘士は、ダスクモンと同じように鎧を纏ったままその顔を露わにしている。肩に着く程度の緩やかな漆黒の髪は闇に溶け込むように揺蕩っていた。「輝一」と安堵したように名を呼ぶその声は、やはり自分の声ととてもよく似ている。
「さぁ、選ぶといい」
 答えなんて決まっている。躊躇いなく差し出されたレーベモンの手を取り、輝一はダスクモンを振り返った。
――ここで一人残るのか?
 彼女の表情が初めて動いた。驚きだったのか呆れなのか喜びなのか、はたまた怒りなのかわからないほどの細やかな変化。その感情を読み取ろうとする前に、ぐっとレーベモンに手を引かれる。まるで「それ以上あいつを気にかけてはいけない」と言わぬばかりに。
 体が浮き上がる。上へ上へと。気になって背後を振り返ろうとするたび「振り返るな」と咎められた。
 光に手が届くかもしれない。そこまで近づいた時、世界が揺らぎ、闇が溶ける様に光に塗り替えられる。世界だけでなく、繋がれた手の中の闇も。

「生きろ、輝一」

 別れの言葉をかける慈悲は残されていなかった。消える半身へと手を伸ばすのと、ここにはいない片割れの叫びに意識が引っ張られるのはほぼ同時。
 白の視界はその瞬間に濃藍へと切り替わる。涙を湛えた、輝二の瞳に。



闇の申し子
お前は闇の子。光と表裏一体ではあるけれど、お前自身は決して光になれない。それを知らずに光の中で足掻き続け、自分の抱える底なしの闇に絡め取られ、いずれ絶望するだろう。そして愛しく悲しく可愛そうなお前は、必ず私の元へ戻ってくる。それまでせいぜい無様にもがいて私を楽しませるといいわ。

いつだったかツイッターで上がったネタ。その時はダスクが輝一を助ける云々だった気がするけど、結局助けたのはレーベだった落ち。
最初は普通にダスクモンで書いてたけど、途中でダス姉さまの方がしっくりくることに気付く。
20120514

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