*年齢操作 *現代パロ *マサ拓


 最近、というか、中学に上がって電車通学するようになってから毎日見かける男がいる。広大な森の樹木を思わせる、澄んだ緑の目が印象的な男だ。
 朝早だからかそこそこすいている電車内の隅っこ、そこがその男の定位置。俺が電車に乗っていると必ずそこにいる。
 かっちりしたスーツ着てるから、たぶん社会人なんだろうな。窮屈なのが嫌いなのか、男はいつも落ち着きなさそうにネクタイを緩めたりワイシャツの襟を引っ張ったりしている。普通なら見っともないんだろうけど、男は何故か様になっていて普通にカッコイイ。
 俺は電車内で勉強するような真面目な中学生じゃないから、この時間はいつも暇を持て余してその男を眺めていた。あまりにじっと眺めていると男が視線に気づいてこっちを向いてくるので、適度に、それとなく。こんなことをもう数週間続けているけど、よくあきないよな、俺。
 特に電車内での定位置を決めていないから、男との距離は近かったり遠かったりとまちまち。俺は平均的な中学生ぐらいの身長しかないから、たまに混んでいたりすると人の波に紛れて男が見えなくなる。その時ほどつまらないことはない。なんでそう思うのか自分でもわからないけど、たまに電車の中にいない時とか、風邪でもひいたのかと心配で仕方なかった。後日にけろりとした顔でそこにいるから、心配するだけ損だったらしい。
 それがつまらないから、寂しいに変わったのは1ヵ月をすぎたあたりだった。
 いつもはすいてる電車が異様に混んでいた。たぶん外が土砂降りだから、普段使わないやつも使っているからなんだろうな。つり革すらつかめないほど混んでいるから、男の姿は見えない。
(つまんねぇー……)
 ぎゅうぎゅうと押してくる人の波に流されながらも、無意識に男を探している自分に驚く。で、たぶんそれがいけなかったことに気付いたのは視界がぐらりと傾いた時だ。
「お……!?」
 無理な体制で奥へと流されたままで注意力も散漫していたから、足元に置かれていた誰かのカバンかなにかに気付かずに見事に足を引っかけた。
 あ、まずいな、と思う間もなく、傾いた体は力強いものに支えられる。それが何かを理解する前に、ぐっと体を引き寄せられて車内の隅に押し付けられた。
「大丈夫かよ?」
 影がさして、上から声が降ってくる。視界に飛び込んできたのは、あの男がいつも来ているスーツだ。
 上げた視線が緑の瞳と合わさって、ようやく男が助けてくれたのだということと、ここがあの男の定位置だと気付いた。男は屈んでいるせいか微かに吐息が額に当たるくらいに顔の位置が近い。
 初めて真っ向から見た男の顔に呆然としてしまい「大丈夫」とも「ありがとう」とも声が出ない。密着している箇所も顔も、自分でもわかるくらいに熱い。沈まれ、俺の心臓……!
 黙ったままの俺がおかしかったのか、男は声を押し殺して小さく笑っている。うぁー、穴があったら入りたい……。
「そういやさ」
「?」
「お前、いつも俺のこと見てるよな?」
 さっきの笑いとはまた違う笑みに、今なら恥ずかしさで死ねる気がした。


侵されていく思考


ブランクひでぇ……
20120507

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