それは、きっとお互い様 ―― 拓二 ――
駅は平日の昼下がりであろう人でごった返している。
定期を改札口に通して、エスカレーターを上がり、拓也は電車に乗り込む。
(何処か、物足りない)
揺れる電車の車内。流れていく景色を壁に寄りかかりつつ、ぼんやりと眺める。なんら変わらない、いつもの光景だ。
十年前のあの夏の日。拓也は他では到底経験できないような体験をした。まるで物語の主人公にでもなったかのような、そんな体験。あの冒険を共有した仲間でないとわからない、大切な時間。
あの時、拓也はまだ子供だった。世界がキラキラと色鮮やかに輝いて見えていた、幼い子供だった。
(全てがくすんで見える)
鮮やかだった世界は、時とともに色褪せていく。昔に見えていた世界は幻か何かだったのかと疑ってしまうくらいには。
時は世界すらも劣化させるのかと、拓也は自嘲気味に笑った。
別に人生がつまらない訳ではない。今は今はで、それなりに楽しんでいる。家族がいて、友がいて、やりたいことがある。極々普通のありふれた幸せはちゃんとそこにあるのだ。それでも、この世界は色褪せていた。物足りなかった。
結局のところ拓也の世界に色を付けるのは、あの冒険を共有した仲間たちだけだ。