*マサ拓
皮膚に張り付く濡れた髪と制服、肌を伝う雨粒が嫌に気持ちわりぃ。足を動かすたびに、靴の中の空気が掻き回されて音をたてた。
突然降られた雨のせいで、俺も拓也もものの数分で濡れ鼠だ。確かに暑いからシャワー浴びてぇなとか思ったが、こんなでっかいシャワーが欲しかったんじゃねぇよ。
薄暗いバス停で雨宿りして、灰色の空を睨みつけても何もかわりゃしねぇなんてわかってる。
少しでも乾かそうとシャツの裾を絞って、溢れた水の量にげんなりとした。
「あー、うぜぇ……なんだよ拓也」
ふと横から視線を感じて首を動かす。すると水滴がこっちにまで飛んでくるほど勢いよく拓也がそっぽを向いた。拓也の性格を反映したようなその栗色の髪は、雨に濡れてぺしゃんこになっている。
「おい?」
「なんでもんない」
呼び掛けても顔を上げない。
なんか気に食わねぇ。わざとそっけなくしているような声音が更に。
「こっち見ろよ」
「嫌だ」
即答かこのやろう「なんでだよ」と聞いても拓也は答えない。
苛立ったからその肩をつかんで強引に振り向かせる。すると飛び込んできたのは、驚くほど赤くなった拓也の顔だ。
「……なんで赤くなってんだよ」
「うるさい、見んな馬鹿」
俺は頭がおかしくなったんだろう。こんな外で変な気持ちになるなんて。
それもこれもこの雨と薄暗さ、それと雨に濡れた拓也の妙な色っぽさのせいだ。
必死で顔を隠そうとする拓也の腕を押さえて、揺らいでいる緋赤銅の瞳に俺の姿を映す。そして湧き上がってくる衝動のままに、喚き立てるその口を塞いだ。
放課後雨宿り
(責任転嫁上等)
水に濡れると妙に色っぽいよね。そんな話
20120331