*最終回後捏造 *撤退組+タイキ


 またデジモンハントが始まった。
 夏も終わりに近づき、秋の気配がやってくる。幾分か涼しくなってきた秋風が、真上に流れる白い雲を遠くへと運んでいく。あっという間に流れていくその様子は、ムービーを早送りしているかのようで、自分が時の流れから切り離されたような錯覚まで起こす。
 呆然に近い状態で、リョウマはそんな空を見上げていた。
「……」
 リョウマはじっと公園でレンとアイルの帰りを待っている。あのクォーツモンの一件以降、二人はリョウマの傍にいるものの、リョウマをハントに誘うことはない。
 ずっと見上げていたせいか、首が痛くなってきた。視線を下げると、握っていた自身のクロスローダーが視界に入る。
 緑色のソレを見て、零れそうになった涙。蓋を閉じるかのように瞼をぎゅと閉じて深く息を吸う。
「サイケモン……」
 無意識の内に口の端から零れ落ちた名前に答える存在は、クロスローダーの中にはもういない。
 騙されていた。利用されていた。誑かされていた。君は悪くない。憎むべき相手。
 周りはそう言ってリョウマを慰める。その慰めがどれほど彼の心を抉っているかも知らずに。
(本当に、サイケモンの意志はなかったのだろうか……)
 今まで過ごしてきた時すべてが、クォーツモンによる偽りだったのだろうか? 答えはもう知りえない。
 もしサイケモン自身に意志があったのなら、今まで過ごしてきたものの中で一つでも本物があればどれだけ救われるのだろうか。
 延々と考えるだけ辛くなるだけなのに、思考を止めることはできない。
「リョウマ」
 ふと影が差したかのような気がして、名前を呼ばれる。それはリョウマが憧れてやまない人の声。顔を上げて瞼を持ち上げると、海のようなコバルトブルーが己の青磁の瞳とカチ合った。
「た、タイキさん……っ!」
「こんなところにいたのか。探したぞ」
 掠れて上擦った声に、タイキが苦笑する。その腕に抱えられていたのは、一つのデジタマ。その横には少し不貞腐れた表情のレンとアイルがいる。おそらくハントしていた所で、タイキに会って案内させられたのだろう。
 何の用ですか?と尋ねる前に、タイキは有無を言わせずデジタマをリョウマに持たせる。リョウマの瞳と近い、薄い緑をしたデジタマはずしりと腕に重さを伝えた。そのデジタマは、確かに生きていた。
 それはリョウマの手に渡るのを待ち侘びていたかのように、中からコツンと音を立てた。
 こんこん。
 音がするたびに、リョウマの腕の中でデジタマが身じろぐ様に揺れる。
「シャウトモンが、それはお前が持つべきデジタマだって言っていた」
「私が……」
 ぴしりと殻にヒビが入る。
 その音に、タイキに向けていた視線を下げた。
 ヒビは広がって、デジタマもつられて大きく動く。食い入るように見つめるリョウマの視線に答えるかのように、殻は綺麗に割れた。殻の破片が黒い服の上に散らばるがそんなことは気にならなかった。
 プニプニした赤い小さなデジモンが、その大きな瞳でリョウマを見上げる。

――リョウマ

 懐かしいような声が自分の名を呼んだような気がした。傾けたグラスの様に、流せなかった涙が溢れていく。
「……そのプニモンと、一からやり直すんだ」
 ぼろぼろと涙がプニモンの体を濡らす。
「プニモンと……」
 プニモンは不思議そうに身じろぎした後、リョウマの胸に自身の柔らかい体を摺り寄せた。
「っ!」
 堪えきれなくなって、その小さな体を掻き抱くように抱きしめる。
「リョウマ…っ!」
「よかったね……!」
 その様子を静かに見守っていたアイルとレンも我慢できなくなったのか、リョウマに駆け寄ってプニモンごと彼を抱きしめた。
「く、苦しいですよ……」
 涙声で訴えても二人は離れない。
「「おかえり」」
 その言葉は、リョウマと腕のプニモン、どちらにも向けられていた。
 リョウマは一瞬だけ面食らった顔をしたが、すぐにはにかんで「ただいま」と返すとプニモンへと視線を戻し、震える声でずっと言いたかった言葉を吐き出した。

「おかえり」

 タイキもその様子を見て「よかったな」と、笑った。


新しい命とともに
(これでまた3人一緒にデジモンハントできるな!)


撤退組幸せになれ!
要望がありましたのでピクシブの方にも上げさせていただきました。
20120325

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