*にょた化注意 *ほのぼの甘 *マサ拓♀



「うまい……!」
「そーか」
 舌の上でほろほろと溶けるチョコの甘さと美味しさに、拓也は目を輝かせた。そんな拓也を見て、マサルは「男勝りでもこういう所は女子だな」とか思いつつ頬をゆるめる。
 マサルの母である小百合お手製の生チョコは、別世界の子供にも通じる味だったようだ。小動物のようにそれを頬張る拓也を微笑ましげに眺めつつ、マサルも生チョコを口に放り込む。慣れ親しんだ味が舌に広がった。
「ところでさ、拓也」
「ん?」
 隣に座る拓也の髪に指を通しつつ、マサルは今日の本題を口にする。
「お前からのチョコはどうした?」
 ピシリ、と音を立てて拓也の表情が固まった。
「ごめん、忘れた」
「嘘付け」
 と言いつつ、すすっとマサルとは反対側の拓也の手が、何かを隠すような動きをする。それをマサルは見逃さなかった。
 身を乗り出してそれをつかもうと手を伸ばすと、拓也は素早くそれを体で隠す。
「隠すなよ」
「だからなんでもないってば」
 マサルが拓也に覆いかぶさるような体勢で二人の攻防が始まる。
 拓也の背にちらりと見えたのは赤いリボンでラッピングされた包みだ。「なんだ用意してるじゃないか」とそれに手を伸ばすが、拓也は頑なにそれを渡そうとはしない。
「……」
「……」
 無言の攻防戦が続く中、暴れすぎたのか拓也のスカートがかなり際どい位置まで捲り上がっているのが視界に入った。日の当たらない位置の白い肌が眩しい。
 そしてマサルは今現在の体勢のマズさを悟る。マサルが動きを止めた所で冷静になった拓也もそれを理解し、顔が一気に朱に染まる。身を捩って逃げ出そうとする拓也に、マサルが素早く唇を塞いだ。
「……渡したくないんなら構わないけどよ、その代わりにお前を食べるぜ?」
 その言葉に拓也は観念して白旗を上げた。元の体勢に戻り、拓也はおずおずと赤い包みをマサルに差し出す。
「あるなら最初から出せよ」
「いや、失敗したから出しづら……え、食べるの早い!」
 もごもごと言い訳している間に、マサルは包みの中のチョコを口に放り込む。

――ガリリッ

 咀嚼しようとチョコに歯を立てた瞬間、普通の型抜きチョコにしてはあり得ない音が部屋に響いた。
(……石?)
 率直な感想。一瞬自分が何を食べたのかわからなかった。苦さと甘さ混濁するそれは間違いなくチョコだ。チョコで間違いはないはず。
「ごめん、ちょっと失敗したからやっぱり返せ」
「……」
 その音に拓也もまずいと思ったのか、マサルの手から包みを取り返そうとする。その手をかわしてマサルは寄ってきた拓也の体を抱きしめた。
「そんな必要ねーだろ」
「でも変な音がした」
「確かにちと固いけどよ、味には問題ねーからいい」
「嘘だ」
「嘘じゃねーって」
 再び包みを取り返そうと拓也が手を伸ばす。その手が届かない範囲に包みを置いて、マサルは拓也の手をつかんだ。
「お前の作ったもんがまずい訳ないだろ?」
「――っ!」
 強く抱きしめて耳元でそう囁くと、拓也は顔を真っ赤にして、観念したようにマサルの肩に顔を埋めた。





重要なのは美味しさじゃない
(お前が俺の為に作ったってことが重要なんだよ)
(なんでそう恥ずかしげもなく言えるかな……)


羊ちゃんへ!ハッピーバレンタイン!
20120214

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