*シリアス *直鋼


人間という生き物に、初めて出会った。
外見はコアとそう変わらない。特にこの男は耳が隠れる髪型をしていたから、外見で判別するのはとても難しかった。
だが、中身は全く違った。鎧を持たない。何かを殺したことがない。戦う術を知らない。人間は、誰よりも何よりも弱い存在だった。
「メルキューレ」
メルと呼んでいいかと言った男を拒絶したのは、俺だ。その呼び方を、九人以外の存在には認められなかったのだ。
「寒そうな顔してる」
「…別に。お前が寒いだけだろう」
「俺は寒くないよ」
伸びてきた腕に抱え込まれる。誰も殺せない無力な腕に。
「頬、冷たいな」
気付かなかった。俺はどうやら冷えていたらしかった。
「俺は寒くないから離れろ。冷たいものに触れていたら、お前が冷える」
うーん、と言ったっきり男は動こうとしない。少し苛立ち、引き剥がそうと指を伸ばして、またためらった。
男の首に触れたことがある。数え切れないほどの命を殺めたこの手で、弱い男のその首に。
鬱陶しくて、悔しくてならなかった。悲しくて、どうしたらいいのか分からなかった。この男の弟が本来負うはずだった代償を、チャックが代わりに負って死んだ。他の五人だって同じだ。確かに、彼らは人を愛した。だから俺はその分人を憎んだ。この手が触れて、そして死ぬのならばそれでも構わないとさえ思って男の首を掴んだ。
知らなかった。知らなくてよかった。自分の手がこんなに冷えていたと。戦う術も身を守る鎧も持たないこの剥き出しの命が、こんなにもはっきりした温度を持っていたこと。その体温が、指に沁みてとても痛かったことを。
「相変わらず冷たい指だな」
逡巡した指を、男はあっさり捕らえた。何を思ってか、きつく握り込み息を吹きかける。指が、ずきりと痛んだ。
「離せ」
「嫌だ。冷たい手、してる」
知らなくてよかった。こんな剥き出しの命のことなど。メルという呼び名を許容できない、冷たいちっぽけな自分のことなど。
「メルキューレ」
片腕で体を、片手で両手を包んで、直樹は鼻の頭を赤くして笑った。
「手が冷たい人は、心が温かいんだってさ」
「……」
「メルキューレは、心が温かいんだ」
知らなくてよかった。
あとはもう死ぬだけだったのに。身を焼くほどに鮮やかなこの体温を知らずにいたかった。暖かな言葉などいらなかった。
「…泣きたいなら、泣けばいいよ」
皆がいなくなった世界で、再び泣く理由などいらなかったのに。

heaven


羊ちゃんのサイトが1万ヒットしました!おめでとう!
そしてリクエストでいただきました!直樹×メルキューレ!わーい!
誰得なの!?ってリクエストにも関わらず、このような素晴らしい文をいただきました!まさか私のつぶやきを拾ってくださるとはっ!羊ちゃんまじ女神!愛してる!←
ほんとに羊ちゃんが私のツボを連打してくるから辛い(^p^)

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