*闇堕ち *シリアス *マサ拓
「いいのか?」
尋ねると拓也は「何が?」と笑ってすっとぼける。薄暗い部屋の中で、赤い瞳が嫌に目についた。それは悲しげに揺れていて、思わず手を伸ばしそうになっる。
「あいつ、お前の恋人だろ?」
「マサルこそ。あのトーマって人はいいのか?」
そう返されて、俺は何も答えない。沈黙。
今日、俺たちは仲間を裏切った。何よりも大事にしていたものを裏切った。あの時のあいつらの目が、今の拓也の目とそっくりだ。それでも拓也は笑っている。
「後悔はねぇのか?」
「ない」
あいつらと同じ悲しい目で、拓也はキッパリと言った。
「俺は悪役でいい。それで皆を守れるのなら」
微かに声が揺れている。自分に言い聞かせるように、拓也はそう繰り返し呟く。何度も何度も。
俺より遥かに小さい身体で、こいつは重すぎるものを背負おうとしている。今にも潰されそうな心。それが潰されて軋む音は、悲鳴にも似た響きだ。
「俺は、守らなきゃ、あいつらを」
馬鹿だな。お前が闇に堕ちてまであいつらを守ろうってのに、お前の心を守る仲間はいやしない。なんて滑稽な話。こいつは絶対に報われない。もちろん、俺も。
「大丈夫、大丈、夫だ」
手を伸ばして誰にでもなく呟き続ける拓也を、腕に閉じ込める。その身体は酷く冷え切って震えていた。
帽子をとって髪をかき混ぜると、声は鳴き声に代わる。背中に回された手が酷く痛々しい。
(せめて俺がこいつを守れたらいいんだけどな)
そう思った自分を鼻で笑う。
馬鹿か。俺があいつらを守る資格を失ったからって、拓也を代用にしようなんて馬鹿げてんだろ。……それでも、俺はこいつを守ろうとする。拓也の為じゃなく、俺の為に。
悲しき道化師たち
(それしか、道はなかったんだ)
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20120204