*ギャグ *拓二一


 誰もいない……正確には誰も入ることのできない教室は夕陽のオレンジで染まっていた。外からは運動部の気合いの入った掛け声が聞こえる。
 その中に、輝二の低い声が放たれた。

「……もう少し仲良くできないのか?」

 板張りの床に正座している傷だらけの二人は、ほぼ同時に互いを指差し「だってこいつが!」とほざく。予想と寸分違わぬ返答と主張を、睨み付けるだけで黙らせた。
「俺の立場も考えてくれ。教室で、しかも人前であんな風に騒ぐなんて……」
 ことの発端は至極単純なものだった。放課後、一緒に帰ろうと拓也が輝二を誘い、それを阻止せんと輝一が割り込んできたのだ。
 輝二としては三人で一緒に帰るのは一向に構わないのだが、拓也と輝一は「輝二と二人で!」と主張して聞かなかった。
 拓也はいちよう恋人で、輝一は大事な双子の兄。どちらかなんて選ぶのはとても心苦しい。輝二が悩んでいる間に二人の言い争いはどんどんヒートアップし、結果教室のど真中で乱闘にまで発展したのだ。
 正直、大事にならなかったのが救いだ。こんなことで生徒二人が停学なんていったら、学校新聞のいいネタになってしまう。
「輝二も輝二だよ。拓也なんかと二人っきりで帰ったら、お持ち帰りされるのが落ちなのにさ」
「お前だってそうだろ! 輝二が無知だからって変なこと教えこみやがって!」
「拓也と一緒にしないでくれ。俺は兄弟愛を教えてるだけ」
「それが行き過ぎてるんだよ!」
「お前らはとりあえず黙れ!」
 また言い争いを始めようとする二人を鶴の一声で黙らせる。しかし、これも一時的な効果しかないのはよくわかっていた。
 輝二は一つため息を吐くと、二人に大して一番効果のある言葉を言い放つ。

「次喧嘩したら、二人とも嫌いになるからな」
「「それは嫌だ!」」

 輝二の言葉に寸分違わず悲鳴を上げる。そんな二人の態度に再び呆れるように息を吐いた。「ならわかってるよな」と輝二に言われるままに、二人は互いに睨み合いつつ「仲直り」の握手をする。
 繋がれた手からぎりぎりと音がするのはきっと気のせいではないだろう。
「拓也、力を込めすぎなんじゃないか?」
「輝一こそ。なんか手が痛いんだけど?」
 バチリ、と二人の間で火花が散った。
 沈黙。
 先に動いたのは拓也だった。
 輝二が何かしらの反応を示す前に、拓也は輝二の腕を引いて彼の唇に自分のそれを重ねる。輝一の目の前で。
 それは一瞬のこと。
 輝二は何が起こったのか理解できずに硬直した。唇が離されてから三秒もたたずに、再び輝二の唇にそれが重ねられる。今度は拓也を突き飛ばした輝一のものだった。
「てめ、なにすんだ輝一!」
「消毒だ!」
 怒鳴りあって喧嘩再開。輝二はしばらく呆然としていたが、ハッと我に返る。
 されたことを理解するうちに、輝二の顔が朱に染まっていく。羞恥に耐えきれず、輝二は争いを続ける二人に爆発した。

「こんのっ、馬鹿野郎ども!」


とある放課後の馬鹿話
(もうお前達なんか嫌いだ!)


遅れて申し訳ありませんっ!セツ様に捧げます!
02120201

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