忠誠とポリアンサ
騎士の仕事様々な
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この仕事をして悪いと思うのは、位の高い連中に逆らえないことだと思う。
ルーウェンは前を歩く二人の王子を見る。マスターガーディアンとしての主、エリカとユーリア王国の王子、エーデルだ。本当は騎士であるルーウェンが横を歩く方が良いだろう。しかし、今はルーウェンが狙われている。だから離れて月星祭の参加者に紛れていた。王子たちはそんなルーウェンにどう接しようかと話していた。一度決めたことは変えない彼女だからこそ、迷惑はかけられない。年上の王子たちは祭りの間、このまま自分たちと距離を置かれるのも嫌だった。ルーウェンは気にすることなく、二人の後ろを歩いて見守っている。祭りは様々な国から人が来ていた。ルーウェンの持つ瑠璃色の髪と月の白色を宿す瞳は深く被る被り物で鳴りを潜めている。こうして見ると、珍しい組み合わせだとルーウェンは笑う。金の髪を揺らすの他国の王子、炎の髪を持つ自国の王子。そして、暖色の髪を持つリカシアの民と行き交う異国人。ルーウェンは愛しく、それらを感じた。


「ルーウェン?」

「どうしました?」

「いえ、何も。少し考え事を。王子たち、見たい所はありますか?」

「ずいぶんと見て回った気がするな」


そうだね、とエリカが頷く。市街地は首都リィリアの中でも一番広いのだとルーウェンは説明した。リィリアでも一番、人が行き交う市街地には騎士が常駐している。何か起きた時には騎士が対応することになっている。
ざわつく人中で、ルーウェンが一人の女を捕らえていた。右手首を掴み、後ろに回す。――凍えるような冷たい目だ。ルーウェンの髪が太陽の下に晒された。


「な、何かしら? 騎士様」

「何かしら、ではありません。盗ったものを返しなさい」

「何こと?」

「そこのご婦人。鞄の中を確かめてください」


目を合わせた婦人は言われた通り確かめる。目を丸くして口元を覆う。財布が無いわ、と言った時にはルーウェンはエリカを見て、互いにに頷いていた。女のポケットに左手を入れる。握られている手首の痛みに女の顔が歪んだ。エリカがポケットから財布を取り出す。婦人は私の、と言ってエリカから渡された。ルーウェンは何も言わずに手を放すと、女が勢いに倒れる。が、襟を掴んでいたらしい。女の首が絞まる。何も言わないその目は、あの時のようだとエリカは思う。初めて会った時のような、凍えるように冷たく、突き放すような鋭い眼差しとその眼光。人を殺してもおかしくない荒れた瞳。今のルーウェンは、王子ら以外が知っている穏やかなルーウェンではなかった。


「……ルーウェン」

「後は任せます」

「え?」

「窃盗です。私は他の任務がありますので、後は任せます」

「はっ!」

「って馬鹿! 何やってんだよ! こいつ平民出だぞ!」


ルーウェンの目が騎士を捉える。びくりと震える騎士を見つめて言う。


「なら、彼らの護衛をお願いします。私は呵るべき場所へ連れて行くので」

「ちょっ! やめてよ! もうしないわ! 約束する! 神子にだって誓うから!」

「最初からしなければ良いんです。で、あなた方はどうなんですか? 行くか、護衛か」

「やめてっ!」


何も言わない彼らにルーウェンは苛立つ。平民の騎士だから見下している彼らに。気付かれないようため息を吐き、女を離した。呆れた表情に騎士はルーウェンを睨む。しかしルーウェンは気にしてはいない。気にするようなことではないのだ。それに、今は祭りの最中である。せっかくの祭り。それを壊すことは無粋というもの。王子たちの方へ歩き出すルーウェンは背を向けながら言った。


「二度目はありません。あと、自分の仕事を全うしない人にリカシアの騎士を名乗る資格などありませんよ。行きましょう。エリカ様、エーデル様」


戸惑っている二人に声をかける。後ろで息を飲むのを、ルーウェンは感じた。

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