忠誠とポリアンサ
プロローグは晩に
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プロローグは晩にルーウェンは暗闇の中を走っていた。怯え、辺りを確認しながら路地裏へと入っていく。それを一つの人影を追っていた。ルーウェンの足取りは段々と速くなっていった。階段を下り、真っすぐ走った。目の前に壁が迫り左右に道がある。それを左へと曲がって右へと曲がる。その先は壁だった。
「っ!!」
ルーウェンは壁に背を付けて両手を胸の前にやって怯える目で見ていた。段々と近付くその足音に冷や汗をかく。後ろにはいけないのはわかっていたが本能的に下がっていた。
「いや……来ないで!」
銀色の刃が月に照らされて見えた。刃には赤い液体が付着していてルーウェンの腕から流れているものと同じだった。
「誰か助けて……誰か!」
涙目になった目をきつく閉じた時、鈍い音が聞こえてすぐ、金属がぶつかり合う音が響いた。何があったのかわからないままゆっくりと目を開けると赤い髪の青年が立っていた。ルーウェンは驚いて目を見開き、目を細めた。青年はルーウェンが見ているのに気づいて駆け寄った。
「迫真の演技だったね。ルー」
ルーウェンをルーと呼ぶ人物は自分をおいて一人しかいなかった。ルーウェンはため息をつき青年を見た。炎のような赤い髪に澄んだ深い海のような瞳。その青年に向かってルーウェンは手刀を肩に直撃させた。
「いった! ルー、何すんだよ」
「あなたは王子でしょう、エリカ様」
「僕はルーが無事ならいいの」
「それはこちらの台詞です。何であなたが来ているのですか。あの者は騎士長が捕らえるはずだったでしょう? なのに、何故あなたが捕まえているのですか。騎士長が困っていますよ」
怒っているルーウェンに対して、青年――エリカは驚いた顔をしていた。まさか、怒られると思っていなかったわけではないだろうか。ルーウェンはエリカを見ている。エリカはルーウェンの頬に触れようとした。ルーウェンは目を細めてエリカの腕を掴んで離す。
「何をなさろうとなさいました? 王子?」
「まだルーが怯えてるんじゃないかと思って」
ルーウェンは手を離して毅然として言った。
「お気遣いありがとうございます。この通り、私は平気ですので」
「ルー、本当?」
「ええ。さあ、騎士長が帰りますので共に王宮へお帰り下さい」
「ルーはどうするの?」
「そのまま宿舎へ帰ります」
「怪我の手当しないと!」
だらだらと流れる血液を見た。ああ、と納得してハンカチで患部の少し上に巻いた。本来は怪我などしないはずだったのだが、その時は思わなぬ邪魔が入った為負ったもの。
「ああ、そうですね。騎士長!」
「何だ?」
じたばた暴れる男の襟首を掴む騎士長のミリギアスは体格のいい男だ。
ミリギアスはルーウェンに近寄った。目を細めて患部を見る。
「あの女を庇った時のか」
「はい。捕まえましたか?」
「ああ。別の騎士が既に捕まえている」
「良かった」
「良くねーよ。仲間刺そうとしたからって庇うバカがどこにいんだ」
「ここに居ますが」
ミリギアスは深いため息をついた。
「宿舎に戻る前に救護舎に行って治療してもらえ」
「はい」
「僕も行くよ」
もやは何も言いまいて。ルーウェンはエリカの手を取りミリギアスに会釈をした。
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