子どもというものは色々な物を拾ってくるものだ。
山へ行けばどんぐりや松ぼっくりを。海へ行けば貝殻を。川へ行けばすべすべした丸い小石を。
なんでそんなものを?と大人は思うけど、子どもにとってはそれらは宝物なのだ。
そして拾ってくるのはモノだけではない。小さな生き物達も家に連れてくる。
ダンゴムシやオタマジャクシ、セミの抜け殻…はもう生きてないか。
以前は虫も両生類も大の苦手だったけれど、うちの小さなお姫様、千鶴ももう5歳になり、同時に私の母親歴も5年になればだいぶ免疫が付いてきた。
でも、さすがに今日の千鶴の拾い物には、飛び上がりそうなほどびっくりした。





千鶴がそれを拾って来たのは私が洗濯物を干しているときだった。
とても良いお天気で、千鶴はお気に入りの赤地に水玉のリボンの付いた麦わら帽子を被り、じょうろのお水を庭に撒いたり、塀を乗り越えて遊びに来たお隣さんの猫と戯れたりしていた。

「ママ!みてみて!」
「なあに、千鶴?」

千鶴が小さな両手に抱えて持ってきたそれを見て、私は少し身構えた。
だって、見るからに汚かったんだもの。
土や埃で真っ白になった黒いボロボロの布の塊。
けれども、千鶴は子供らしい無邪気さで、汚さに微塵も怯むことなくそれを掲げて、私に見せた。

「な、なあに、それ?」
「おにんぎょう〜!」
「お人形?」
「ほら〜」

千鶴が黒い布を捲ると、たしかにお人形の顔が現れた。
顔も土で汚れているけれど、眠っているようなそのお人形の造作は、細くて長い睫毛が一本一本きちんと生えているほど精緻で、頬や唇の赤みも作りものとは思えないほど自然だった。
ボロボロの布に見えた服も、よく見ると黒い着物で、首には白い(埃で黄土色になってるけど元は白だと思う)襟巻をしていて、そしてこれまた精巧な刀を二本、腰に差している。
お侍さんの人形なのかしら?

「へぇ〜!よく出来てるお人形ね!これ、どこにあったの?」
「としぞーがたべてたの。だから、だめっ!っておこったのよ」

としぞーはお隣さんが飼っている黒猫で、本当は別の名前があるのだけれど、うちの旦那様が勝手に『としぞー』と呼ぶようになり、そのうち私や千鶴も『としぞー』と呼ぶようになった。

「助けてあげたのね。えらいね、千鶴」

小さな丸い頭をよしよし、と撫でると千鶴は得意そうに笑った。けれど、その直後。

「……きゅ……す……」

どこからか聞こえてきた声。私と千鶴の笑顔が固まった。

「千鶴、いま何か聞こえた?」
「うん。ママもきこえた?」

顔を見合わせ、再び耳を澄ませる。

「……きゅ……す……」

呻くような苦しげな声。いったいどこから聞こえてくるんだろう?
それに「きゅ……す」って何かしら?

「九州?」
「くーすー?」
「あら、古酒(くーす)なんて渋い言葉知ってるわね、千鶴」
「ママ、くーすってなあに?」
「え?知らないで言ったの?」

愛しの旦那様が聞いたら「また噛みあってない」と笑われそうなやりとりをしていると、また声が聞こえてきた。

「くーす、ではない。急須だ!」
「ああ、急須ね。って、きゃああああああ!!」
「きゃああああああ!」

明らかに近所迷惑な音量の悲鳴が、閑静な住宅街に響き渡る。
でもね、仕方ないと思うの。
だって、千鶴の手の中にあったお人形が、むくっと起き上がって、私達につっこみを入れたのだもの。

「「おにんぎょうがしゃべったーーーーー!!!」」





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