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▼ 春の陽気にあてられて

「ねぇ、そこ退いてくれない?重いんだけど」

『おきたしゃんのお膝あったかくてきもちいいれすぅ』

「もう、馬鹿じゃないの?飲み過ぎなんだよ」

『うふふふ』

頬に当たるのは、彼の膝だろう。
硬くてゴツゴツして決して頭の置き心地は良くないけれど頬摺りして、涎が垂れそうになってしまう…
全力で溜息が落ちてきた気配がしたけど…そんなことはもうどうだっていい。
と言うか…もう考えられない。
呆けた頭も身体もふわふわして、気持ちいいんだもん。
大好きな沖田さんの匂いを、胸いっぱいに吸い込んで、上にある彼の顔を下から覗いた。

太陽と桜の木をバックに背負って、ビールに口を付けている沖田さんに見惚れて…

闇に引きずられた私の意識…






『あはははっー!もう飲めませんっ!…………はっ!』

自分の寝言で目覚めた。

ガンガン頭痛のする頭で起き上がるなんてことも出来ずに、また目を瞑ってみた。

はて……

なんで私はベッドで寝てるのだろうか。
瞑った目からは陽の光なんて明るいものは感じなくて、今が昼間では無いことがわかった。
今日は、近くの大きな公園に陣取って毎年恒例の課の花見だった。

天気は見事な晴天で、ポカポカ暖かな日差しが降り注いで気持ちの良い日だった。
去年は、途中から雨に降られて片付けるのも、雨に濡れながらで大変だったんだ。

あー!今年は晴れて良かった!

だから、片付けだって楽ちん……

片付け……


『あ"ーーーーー!…いだたたた』


思いっきり起き上がったことで、頭が割れるように痛い。
額に手を置いて混乱する頭で、考えた。
兎に角、落ち着けと自分に言い聞かせて考えた。
だけど、どんなに考えたって…

片付け…した記憶がないのだ。

絶賛片思い中の、会社でも群を抜いてのモテ男の沖田さんの隣になんて座れたことに…
緊張でガチガチな私はやたらと同僚に勧められたお酒を飲んで…

飲んで、どうしたんだっけ?

夢なのか現実なのか、頬に残るゴツゴツとした彼の足の感覚と、桜の花びらが舞う中私を見下ろす沖田さんの顔…

酔い過ぎて…

酔い過ぎてっ!

沖田さんのお膝に、所謂膝枕と言う形で、寝そべってしまったんだ……

『ぎゃぁー!沖田さんっ!』

思い出して真っ青になった私。
課の花見で飲み過ぎて、隣の沖田さんのお膝で寝てしまった。
でも、じゃぁ、なんで今ベッドで寝ているのだっ!
と、パニックになる頭で叫ぶと、「煩いなぁ」と不機嫌極まりないと言った掠れた声が聞こえてきて、腕を引っ張られた。

伸ばした手が掴む所もなく、虚しく空を切りそのまま、ベッドへと倒れ込むと、ふわりと匂いが身体を包んで。

この匂いは…

それに不機嫌なこの声は…

『おおお沖田さんっ!?』

「んー、何さ。本当君って煩い」

そう言って、お腹に回された腕に違和感を感じた。
ちょーい!この手は、この手は何ですか!!しかもね、多分と言うかここ沖田さんのベッド。
暗闇に慣れた目と、大好きな沖田さんの匂いがする布団で、自分の部屋じゃないと悟った。
悟るの遅いわ自分!と思うけれど、まだお酒が残る頭でやっと思考が追いついたのだ。

未だに、当たり前だと言わんばかりに堂々と回される腕。
彼と私はただの同僚。しかも、あまり話すことなんか無くて、数多に居る沖田ファンと同じように、いつもコッソリ見ていただけだ。
只同じ課なだけで、大した接点など無かった…
無かったのに何故今私は、彼のベッドの中に居るのだろうか…
大混乱を巻き起こしている脳内で、此れは夢だとの結論が出た。

出た。夢だ。

って、夢じゃないだろー!と、頬を目一杯抓ったけれど、やはり痛い。

「ねぇ、さっきから何してるの?抓ってるけどさ、これ夢だとか思ってる?」

『へ?はひ…』

カーテンから差し込む、外灯の微かな明かりで見えた沖田さんの瞳が一瞬見開いたと思ったら、ぶっと吹き出た。

「あははっ!本当、君って抜けてるよね。その様子じゃ、僕達の関係が変わったことも知らないか」

『変わった?同僚ですが…は!迷惑掛けたから明日から下僕だとか仰るんじゃっ!』

「は?違うし」

『あっ!今から、今から下僕なんですかっ!ううう』

沖田さんがドSだと言うことは、百も承知だ。
酔った挙句に、沖田さんのお家に泊めてもらうなど。
下僕以外のものになれるはずがない。

「もうさ、面白いを通り越して馬鹿だよ。酔ってたからって無しとか言ったらお仕置きしちゃうからね。君からの告白」

そう言うと、チュッと唇に触れた柔らかなものに目を見開いた。
沖田さんが言うには、私が告白したらしく…キ、キスをされているということは、いい返事を貰えたと思っていいのだろうか…
段々深くなるそれに沖田さんに縋りつくように、襟元を掴んだ。

『お、沖田さんの、お返事は…』

「ここまでしても分からないの?…もうお仕置きするしかないみたいだね」

そう言っと、太腿を撫でられた。

それはそれは厭らしい手付きで。

春の陽気に当てられて、隣が沖田さんと言う普段じゃ体験の出来ない事に箍が外れた私の問題行動により、私にも……

私にも…

どうやら春が来たようです。



―fin―

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