『土方部長…ここら辺で…』

「あ"っ?!」

そう言って眉間に皺を深く刻んだ部長に口をつむんだ私を憐れんだ目で見る同僚。







数分前、居酒屋の個室…


一番奥の、所謂お誕生日席に座った部長。
部長から見て前に長いテーブルの一番手前に、私とテーブルを挟んで向かいに沖田くん…
私の隣に斎藤くん…と課の面々が座って楽しく飲み交わし出した。


「ほら〜ぁ、土方さん意地張らずに降参したらどうです?」

意地悪く口角を上げて楽しそうに笑う沖田くんに、無言で睨みを利かした土方部長。

「総司、何を賭けている?」

「え、面白いものだよ。ね?土方さん」

そう言ってレモンサワーを飲み干した
沖田くんを見た土方部長も負けずと緑茶割りを飲み干した。

『土方部長…ここら辺で…』

「あ"っ?!」

見かねた私がストップをかけて睨まれる事なった冒頭のくだりだ。




「ほら、なまえちゃんが怯えてますよ?」

そりゃ、怯えるだろう。

たった一時間でここまで酔える土方部長はある意味尊敬出来るけど…
何時もならあまり飲まないで途中でウーロン茶コースなのに、なんでこんなに酔っているかと言うと私の目の前の彼、沖田くんが原因。
入って数分…
私は斎藤くんと他愛もない話をし、同僚たちも皆、個々に話をしていた。
沖田くんは、土方部長に何か耳打ちをしているのを、斎藤くんと話ながら盗み見していると、敵意剥き出しの様な冷酷な睨みを利かせた土方部長。
次の瞬間、あまり進みの良くない緑茶割りをグイグイ飲み始めたのだ。
そこからだ、何かを賭けた可笑しな飲み比べが始まったのは……

「部長、本当にそろそろお止めになられたほうが…」

「あ"っ?!」

「ダメだよ、一くん。男には踏ん張らなきゃいけない時があるんだ。ね?土方さん」

『そんなのいいですから、もう止めましょ!帰れなくなりますよー』

「なまえちゃんは、黙ってて。」

沖田くんに笑顔の圧力を掛けられ何も言えなくなってしまう。
そして、横の斎藤くんは、何やらブツブツと「男が踏ん張る時とは…」と一人の世界へ入ってしまった。
机に頬杖を付きながら、沖田くんを睨んでいる土方部長に、鋭い視線にもかかわらず一切のダメージも受けずにニヤニヤ飲み進める沖田くん……

もう、知らないんだから。

勝手にしてと、そんな三人とは反対側の同僚たちとの会話を楽しむのだった。


そして、一時間後……

何故か、ベロンベロンに酔った土方部長を送る私はタクシーに揺られていた。
彼は気持ち良さそうに私の膝に頭を置いて。
所謂、膝枕と言う形で…


数分前…


「じゃ、二次会行きますか?」

お会計も終え店の前、顔色ひとつ変えていない沖田くんが声をあげると、盛り上がる同僚を引き連れて歩き出そうとした。

『ちょ、ちょっと!沖田くん!部長はどうするのよ?』

何故か私が肩を貸す形で、腰に手を回すように支えている。
その横で、気遣わしげに変わろうかと言ってくれている斎藤くんを沖田くんが何故か制止している状態。
重いのに…と恨めしい視線を送っても、沖田くんは何を考えているのか助けてくれない。

「総司、みょうじ一人じゃ無理だ。俺が送っていく」

「何言ってるの。一くんは二次会に行くんだよ」

そう言って近くのタクシーに部長と二人押し込まれて……今に至る。


『部長ー、もうすぐ着きますよ?起きて〜』

肩に手を置きゆさゆさ揺らすと「んー、もう少しだけ」と掠れた声が色っぽくてドキドキしてまうが、揺すり続けてなんとか起こして、土方部長のマンションまで無事付いた。

『ぶちょー!!重いからぁ、しっかり歩いてぇ』

「あー?歩いてんよぉ」

と言う土方部長の足取りは千鳥足で私が求めているしっかり歩くとは賭け離れている。
私だって、少なくとも酔っているんだ。
アルコールが入った身体で男の人を支えるのだって限度がある。

『もぅ。部長、鍵は?』

「鞄」

そう言って、私の持った部長の黒い革の鞄を指差した。

何私に探せと?

肩に自分の鞄を下げて、そして部長に肩を貸し支えている私に……
何処に入っているかも分からない鞄の中を探すより、馴れている自分の鞄を探した方が早いだろう。

『ちょっと、壁にでも手をついていて下さい』

肩に回していない手を壁に付かせてから自分の鞄の中身を漁ると、沢山のキーホルダーに付いた鍵を出した。
ジャラジャラまどろっこしいと言われるけど、探すのには最適なんだ。
目の前に翳して、二本ある一本を指で摘まんで鍵穴に差し込んだ。

『ほら、部長。入りますよ』

靴を脱ぎ、……って酔っている部長はなかなか脱げずに足をまごつかせている。
その様が、なかなか脱げない小さな子みたいで目尻を緩めて笑った私は、部長を座らせた。

『もう、子供みたいですよ?』

しゃがんで靴を脱がせてあげるとその手を部長の方へと引き寄せられて…

私の唇に、自分の其を押しつけてきた。


『っ、……んっ』

たっぷり口内まで堪能されて、やっと解放された唇。
離れていく唇に視界が開けて、目の前に見えた部長の少し不機嫌そうな顔に首を傾げた。


「小さな子供じゃ、こんなことしねぇぞ。…それに、もう家だ。部長じゃねぇ」

『………』

呼び名と子供扱いに臍を曲げてたなんて。
思わず可愛いと思った私は、手を引いて立ち上がる様に促した。

『さぁ、行きましょう、…トシさん。』

"あぁ"と短く返事をしたトシさんは、満足そうに微笑し壁に手を付きながら立ち上がった。

可愛い…

私の言葉で嬉しそうにしたトシさんがやはり子供みたいで。
お酒は彼を幼くするのか、普段からは想像出来ないそんな姿に頬が緩んでしまう。

寝室まで行くとベッドに座り、そのまま転がった。

『トシさん、スーツ皺になっちゃいますよ?』

「じゃぁ、おまえが脱がせろ」

『い、嫌ですよっ!自分で脱げるでしょ』

「何今更、恥ずかしがってんだよ。毎回見てんだろ、裸なんて」

『……っ!もうっ、恥ずかしいです!』

そう恥ずかしげもなく楽しそうに口角を上げちゃう余裕が恨めしいと頬を膨らました。
私の手を取って、自分のスーツの釦へと触れさせた所為で引っ張る様な形になり、膝をベッドに付いた。
その手の優しさと至極優しい瞳に見つめられたら、手を振りほどくなんて出来ないと困った私は眉尻を下げた。

意を決して釦を取って、スーツを脱がし、下もだと催促されながらパンツだけになったトシさんから視線をはずして……
軽く畳んだベッドの傍らに置いたスーツ達を手に取ろうとした私のブラウスの釦に手を掛けようとした。

『ちょっと、トシさん。なにするんですかっ。』

「何ってお前のも皺になるから脱がしてやろうとしたんだよ。何期待したんだ?」

『いいです。脱がないです』

ニヤリと意地悪く微笑した彼を軽く睨んだ私は熱くなった頬を見られないように顔を逸らした。

「じゃぁこのままでいいか」

『えっ?』

釦に置いた手を移動させて、私の手引っ張って自分へと引き寄せたトシさん。
その逞しい胸へ抱きすくめられるような形になり、足元の布団を器用に、足を動かして手元まで持ってきて私と自分に掛けた。

『と、トシさん』

「寝るぞ」

『寝るぞじゃないですよ。その手』

「あ?」

トシさんの太ももを撫でる手をペチンと叩くと不服そうに眉を顰めた。

『あっ、そうだ!なんで今日は無謀な飲み方したんですか?何を賭けていたんですか?』


捲し立てる様に言葉を吐き出した私
に、罰が悪そうに視線を逸らしたトシさんはほんのりと頬を染めた。

「おまえだよ」

『は?』

思いもよらなかった答えが出て、間抜けな声を出した私は目を瞬いた。

「だから、総司が、飲み比べして俺が潰れたらおまえをかっ拐うて言いやがったんだよ」

『そんなこと?』

「そんなことじゃねぇ。なまえがかかってんだ、重大だ。」

"お前と総司は仲がいいじゃねぇか。心変わりでもされちゃかなわねぇ"とトシさんらしくもない口ごもった言い方に、可愛くてだらしなく緩む頬を隠せない。
確かに同期の沖田くんとは、お昼は、毎日一緒だし飲みに行ったりと仲良しだけどそれを言ったら斎藤くんだって一緒だし。
多分この賭けも、トシさんを酔わすために、吹っ掛けたものだろう。
トシさんが気付かない訳はないだろうけど私が掛かっているから重大だと言ってくれた彼は私を自分の傍に置いておきたいと思ってくれているのが伝わって嬉しくなる。
普段は、そんな事口にしてくれないし。
社内で、私達が付き合っていることも、沖田くんや斎藤くんなどごく一部を除いては内緒だ。

『私はトシさんだけだよ?誰かが拐おうとしても無理。だってこんなに大好きなんだもん』

そう口にして微笑むと、「そうだな」と嬉しそうに眉尻を下げたトシさんの端正な顔が近づいて、優しい口付けが降って来た私はこの幸せな温もりを感じて眠りへと落ちていった。





−fin−




星刃様、相互ありがとうございます!

どうでしょう、土方さんで萌えれましたでしょうか?
土方さんは、ちょいちょい裏に、持っていこうとするので、「そっちじゃないのー!ひーじーかーたーさんっっ!」と連れ戻すのに大変でした(笑)

気に入って頂けると嬉しいです。

では、これからも宜しくお願いします(*^^*)







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