ポーカーフェイスの素顔は?(土方/学パロ)

▼ホワイトデー


ポーカーフェイスの素顔は?(土方/学パロ)

高校を卒業して、もうすぐ半月。

今日は、友達との予定もない私は、勉強机でスマホの液晶を弄って目的の画像を出した。

頬が緩むばかりだったはずなのに、ここ最近写メの中の人物を見ては浮かない顔で溜め息を吐くばかり。

「今日も、会えないし…」

何日会えてないかと、壁のカレンダーに目をやると盛大に息を吐いた。

「一週間も会えてない…」

土曜の今日だって部活で遠征だし。

平日だって学校が終わってもやることがあるとかで…
終わってから電話で少しだけ話すだけ。
夜から連れ出すのは親の手前出来ないって言われちゃうし。

「寂しいよ…せんせい」

スマホの画面に写る、振り返った先生に呟いた私は熱くなる目頭に天井を見上げ目をしばたたかせた。

勿論、写メ撮らせてなんてお願いしたって眉間に皺を寄せられるだけ寄せて睨まれそうだし…
不機嫌になるのを承知で不意討ちをしたから、若干ブレているけど、”なんだ?”って言った所為で口か半開きで素の顔って感じで私のお気に入り。

バレンタインに、両思いになれた土方先生とお付き合いをすることになって一月…
だけど、二年生の担任を受け持っていてまだ普通に午前は学校があるし、忙しすぎて付き合っている実感なんて…ぶっちゃけない。

それに、大人な先生が私を好きになってくれたこと自体が夢心地なんだもん。

あと数日で春休みだと受かれたけど、剣道部の顧問をしているし部活で忙しくて会えないと言われそうで心が折れそう。

机に突っ伏すと静かに瞼を閉じた。

せめて、夢でだけでも先生に会えたら幸せなのになぁなんて思いながら……



寒さで目が醒めた私は、身体全体から体温を感じられない感覚に身震いして、突っ伏していた上体を持ち上げた。

真っ暗な液晶のスマホから、紫のランプか点滅している。
紫は、土方先生からのメールお知らせランプに設定している。
いつも、電話ばかりなのに珍しいとメールボックスを開けると、”もうすぐ学校に着く。16時ぐらいには帰れるから少し出れるか?”と書いてあった。

それを読み終わった瞬間、嬉しくてスマホを両手で握りしめて肩を震わせた私の顔は実にだらしないだろう。

「やった…先生に会えるっ!」

足をじたばたさせて、悶えていた私はふと壁の時計が16時半を指していることに固まった。
もう来ちゃうじゃない、と慌てて椅子から立とうとすると手に握っているスマホが着信を知らせて「うわぁっ!」と変な声を上げてしまった。

深呼吸をして息を整えると、少し不機嫌なような土方先生の声。


『メール見たか?』

「うん」

『そうか、…今なまえの家の前なんだが』

「えぇっーっ!!」


あり得ないぐらい大きな声で絶叫したものだから、耳が痛いと怒る土方先生に平謝りして階段を駆け下りた。
深呼吸をしてから、バラバラになっているエンジニアブーツに足を通して、って……
ああっ、息切れが凄い!
慌てて階段を駆け下りたせいだけでは無い…と思う。
久々の土方先生に胸が高鳴るのと同時に緊張してしまって上手く呼吸が出来ない。

「……もっとお洒落してくればよかったっ」

下を向いた私は、ケミカルウォッシュのジーンズに大きめの白のセーター、それに大判の黒のストール…

久々に好きな人に会う格好じゃないかも…と思うけど、待たせるともっと不機嫌になってしまうと玄関のドアを勢いよく開けた。

「先生っ!ごめんね、気づかなくて」

助手席のドアを開けて屈んで中の先生に視線を合わすと、顎をしゃくって入れと言ってきた。
怒っているかも…と身体を強ばらせて助手席に入ると、身をこちらに乗り出してシートベルトを閉めてくれる動きに緊張してしまう。


「すこし大丈夫か?」

「うん、二人とも遅くなるっていってたから出てくるってメールしといた」

「そうか。じゃあ、少し付き合え」

付き合えも何も、シートベルトを閉めた時点で帰す気なんかないと思うけどと苦笑いして頷いた。


少し車を走らせて、先生が止めた場所はうちから、さほど遠くない土手の横にある公園の駐車場だった。

日が延びてきた所為で見える見慣れた景色に目を瞬いた。

ここに何か用事でもあるのかな?

ギアをパーキングに入れた先生は、ジャージのポケットからタバコを取り出したけど、少し思案しているのか固まったと思ったら其をまたポケットへと閉まった。

前に、車で煙草を吸っていた煙と揺れに気分が悪くなったことがあったから、それ以来私の前では滅多に吸わなくなったんだ。
私の事を考えてくれて嬉しい反面、三度の飯より煙草好きと、噂されていた先生に我慢させて居心地が悪いと思われていないか心配になってしまう…


「先生?吸っていいよ?」

「ん?否、いい」

そう口にして、今度は反対側のポケットをあさりだした先生に首を傾げた。
何か探し物かと口にしようとすると、ずんっと目の前に差し出された透明のラッピング。

くしゃくしゃの手のひらサイズの透明のハート柄の袋に、青のモールでくりくり口を閉められているものに、目を見張った。

「これ…」

「いらねぇなら…やらねぇ」と手を引っ込め様とした手を首を振りながら阻止して、小さなラッピングを手に取った。
否、奪い取った?だって、機嫌を損ねたら本当にくれなそうだし。

「開けていい?」

「あぁ」

窓の外を見ている先生の頬が少しだけ赤い気もするけど…

視線を手元に向けると、モールに手を掛けてラッピングの中身を逆さにして揺すって落とすと、市販で売っている大袋に入っている飴玉の包が二個。

ホワイトデーなのに、お返しはこれだけとは思わない。
だって忙しいのにこうして会いに来てくれたことと、先生がこんなラッピングを自らしてくれた事に意味があると思うから。

加えて言うならば、葡萄と林檎だから。私の大好きな果物を覚えていてくれた事に胸に暖かなものが広がった。

「先生ありがとうっ!一つ食べる?」

上機嫌な私は、窓枠に肘を置いて外を見ていた先生の前に飴玉を乗せた掌を差し出した。

「………」

私の掌を見つめたまま固まってしまった先生に怪訝な視線を送ると、焦った様に両手で私の手を掴んできた。

「な、なっ何、先生っ!!」

「指輪っ!指輪はどこだ?」

「へ?指輪なんかなかったよ?」

「一緒に入れといたんだよ」

「えぇっ?」

そう口にすると、二人して椅子の下やシートの隙間などを探していると、腰を浮かしてお尻の下に手を入れたら、つんと指先に固い冷たいものが当た。

「せ、先生っ!在ったよっ!」

「あぁ、良かった」と目元を緩めた先生が格好良すぎてドキドキ鳴る心臓が限界だと言っている。

あぁその顔反則です。

「ねぇ、ねぇ、先生。私手作りで大したもの上げてないのに指輪なんかもらっちゃっていいの?」

「……四月からは専門だからな。虫除けだ」

少しの沈黙のあとに、ボソッと呟いた先生は、照れたような顔をして視線を反らしてしまった。

虫除け?と一瞬考えてしまったけど…

先生の気持ちが嬉しくてにやけてしまう。
虫がついてほしくないって思ってくれているってことでしょ?

「ありがとう。先生!」

「……なぁ、そろそろ…その先生ってやめねぇか?卒業したんだし」

「先生は先生なのに?」

「なんだか何時までも、いけねぇことしてるみてぇじゃねぇか」

意地悪してみたら、そっぽを向いてボソボソと口にした言葉に頬が緩んだ。


「…じゃぁ、とし……ちゃん?」

「…」

絡かうつもりで”ちゃん”付けにしたのに、恥ずかしくなってきてしまって頬が熱を伝えているから相当赤いだろう顔を土方先生に向けて口にすると、凄く嫌そうに顔を顰めた。

「…ちゃんは、ない…だろ」

「えー?そうなの?…じゃぁ……とし君?」

益々眉間の皺を濃くしてしまった、先生に居心地が悪いと目が泳いでしまう。

「……なまえ、てめぇ俺の名前であそぶんじゃねぇ」

「うん?遊んでないよぉ。じゃぁっ!としさん?」

「そうだな、それが一番しっくりくるんじゃねぇか?」

「…やだやだ、さんなんてなんだか若くないよっ。」

「じゃぁ、なんだ、としちゃんか?ガキじゃあるめぇし」

「うーん、とし君がいいっ!」

"いいでしょ?とし君っ"とジャージの袖をクイクイッと遠慮がちに引っ張ると、視線を逸らして"勝手にしやがれ"なんて言った。
口は悪いけど、音色は柔らかで優しさが滲んでいるから怖くないんだ。
それにね、頬がほんのり赤いよ?とし君。

くすくす笑う私に、頬を仄かに染めたとし君にデコピンされたけど、その痛さも心地よかったりしちゃうから手におえない。


鬼教師なんて言われている土方先生が頬を染めたり、意外にも独占欲が強かったり…

知らない彼を沢山見れる私は、幸せ物だと染まった頬を緩めて彼を見た。


−fin−



あとがき―


土方先生〜、最後は夢主ちゃんにタジタジでしたねっ!

随分な年下なので、夢主ちゃんが可愛くて仕方ないのですが、彼も口が悪いに加えて激務でなかなか会えなくて、不安になってしまっていたこの一月をホワイトデーで盛り返したお話でした。

因みに、夢主ちゃんは高校を無事卒業して四月からは美容師の専門学校に行くことが決まっています。
美容師になって、土方さんのサラサラヘアをカットしたいっ!と言う私の願望が入ってしまいましたが。



次は沖田さん→




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