ほろ苦大人なバレンタイン(原田/現パロ)

▼バレンタイン


ほろ苦大人なバレンタイン(原田/現パロ)

はぁ……

今日何度目になるか分からないため息を吐いた私は、先程から胸の中に渦巻くどす黒いものに顔を顰めた。

午後からは、営業へと行くと話していた彼は、コートを着て準備をしていた。

その背中をパソコンの画面を見るふりをして見つめていた私は、知らぬ間にまた溜め息を吐いていたようで、隣の同僚に幸せが逃げるぞ?
なんて突っ込まれてしまった。

大きなお世話よ。

…でも、本当に幸せが逃げたら困る。

今ある幸せが無くなる事を思い息を止めた。
だって2月14日と言う日のせいでナイーブになっているから。

そんなことを考えながらぼんやり彼を見ていると、準備が出来たようで此方に視線を寄越すと目を細めて微笑し出ていった。

その手にはチョコの入ってるだろう紙袋を下げて……

お昼休み、社食で昼を済ませ同僚と別れて
トイレにいった私は、見てしまったのだ。

階段の所で女の子からチョコを渡されている左之を…
今日、何回目?と悲しくなる気持ちでオフィスへと戻った私は、溜め息を吐きまくっていたのだ。

数日前に、チョコを渡されたらどうするの?と言う問いに、貰わないと言った左之を、怪しまれるから貰ってきなよ。
と余裕綽々とばかりに言ったのは私だ。
だって、左之ばかり大人っぽくて、私だって大人の女の余裕が欲しかったの!

でも、今日は朝から所々でチョコを渡している光景を見た。

その大半が左之で…
どれ程、私が彼女です!!と叫んでやろうかと思ったことか。

彼がモテることなんて百も承知で付き合ったけど、実際目の当たりにすると辛いものがある。
社内恋愛の私たちは、何かと面倒だからと付き合っている事を隠していたのだ。

私より可愛い子なんて沢山居るし、いつ左之が心変わりするか苦しくて仕方ない。
何度目か分からない溜め息をついて書類に目を通した。


左之が外回りに出てしまえば必然的に嫌な場面を見ることもなく気持ちを立て直した私は、左之の好きなビーフシチューを作って帰りを待っていた。

六時を過ぎてチャイムがなって、直帰にしては遅い帰りに不安になってしまう。
普段はそんなこともないのに、バレンタインと言うものは酷く私を不安定にさせるんだ。

『おかえり』

「ただいま。いい匂いだな」

鞄を受け取り…
本当は持ちたくない紙袋も受けとると左之に続いて部屋へと入って行き、紙袋を部屋の隅に置いた。
だって見たくないんだもん。
あの中には左之への想いが沢山詰まってるんでしょ…
なんで、貰ってきていいとか言っちゃったのだろうと後悔してももう遅い。

暗くなる気持ちで、キッチンへと足を進めた。


………………

今日の会社でのなまえは、常に、元気が無く上の空って感じだった。

原因なんてのは、分かっちゃいるが呼び出されたら、話は聞かなきゃなんねぇだろ?
でも、大事な女に悲しい想いをさせて何やってんだと俺だって辛かったんだ。

帰ってきてからも、飯を食ってる時ですらぼんやりする始末。

今だってテレビを見ながら視線は斜め下を向いていて上の空だ。

「なぁ、なまえ、どうかしたか?」

『…どうもしない』

「話してくんねぇとわかんねぇよ?二人の約束だろ?」

『…』

俯くなまえに見当は付いてるが敢えて、自分から言わせるように仕向けた俺。
同棲する時に、思ったことはなんでも話す…と決めたんだ。

「我慢するクセなんか付けない方がいいんだぜ?俺がすべて包み込んでやるから、自分の気持ちに正直になれよ。」

今にも泣きそうな顔で俺を見るから、優しく頭を撫でてやると"あれ…やだ。"と部屋の隅に置いた紙袋を指差した。

「あぁ、あの義理チョコか?」

『え?』

目を見開き分からないと言わんばかりの顔だ。

「本命らしいのは、大事な女が居るから受け取れねぇってちゃんと断ったよ」

呼び出しされて告られたが全て丁重に断ったんだ。
相手にだって悪いだろ?

『本当?』

「あぁ、おまえを悲しませることなんかしねぇよ。」

そう言い、パソコンの机の横に置いた俺の鞄をガサガサあさり目当ての物を手に取るとなまえの座ってるソファーの横に腰を下ろした。
鞄から出した其を渡すと、ぱちぱち瞬きをして箱を見つめた。
一向に開けないあいつに、催促するとおずおず開け出し、中身を見て目をキラキラさせた。
ころころ表情を変える愛くるしいなまえに目尻が自然と下がる。

『……左之これ』

「あぁ、ペアリングだ。俺は会社にはしていけねぇから休日だけだが、おまえが聞かれたら俺からだっていっちまえ。隠しとくから言い寄られるんだもんな。」

華奢で白いなまえの手にも嵌めてやると、くしゃっと歪めた笑顔で"ありがとう"と笑った。
鈍感だから気づかないが、おまえを狙ってる男だっているんだぜ?
気にする小せぇ男だと思われたくないからお前に指輪をつけて欲しいなんて言えなかったけどな。
この機会におまえは俺のものだって、バレてもいいだろ?

左手の薬指を目尻を緩めて見ているなまえが可愛くて、その手に手を重ねて唇にキスを落とした。

『あっ!そうだ!』とパタパタとキッチンに行ったなまえが戻ってくると、その手には皿に乗ったガトーショコラ。

『左之食べるよね?』

そう笑ったあいつにこの先、みょうじ以外の本命チョコはいらねぇなと思ったのだった。




−fin−


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