ペルソナ夢 | ナノ




幾月百合子


初めて、有里先輩を見た。
彼はこの物語の主人公で、私が見守るべき要素の一つ。そんな彼はどこか儚げな印象を持つ人物だった。
「こんにちは」
「こんにちは、君…」
挨拶はちゃんと返してくれるのだが、どうやら彼は口下手であるらしい。以前、一度だけ会ったことがある私のことを覚えてはいたものの、名前を思い出せなくて思案している、といったとこだろうか。困り顔で言葉に詰まっていた。
「理事長の娘の幾月百合子です。春にお会いして以来、一度お話してみたいと思っていたんです」
よろしく、そう言って手を差し出すと有里先輩は同じくよろしくと言って握手してくれた。
その手の皮は硬く、厚い。毎晩のように様々な武器を使ううちに肉刺ができては潰れ、少しずつ硬くなっていったのだろう。逞しい、努力をする人の手だと思った。これを言ったら、彼は必要に駆られていたからと応えるだろう。
だが、理由なんてどうでもいい。私は努力を怠らない人が好きだ。
「有里先輩」
「ん」
「有里先輩は、戦い、守る人ですね。憧れます」
ほぼ初対面の私にこんなことを言われたら、彼はますます困るだろう。だが、これは私の素直な感想だ。
私は、もう運命を諦め受け入れることを覚えてしまった。だからこそ、まっすぐ立って歩ける彼に憧れるし、羨ましいと思う。
「じゃ、私はこの後用事がありますので」
戸惑っている有里先輩の手を離し、私は無邪気に笑った。
そのまま私は天田君が待つ神社の前に急いだ。


幾月百合子




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