常闇の深淵より愛を込めて
50話で櫂くんが負けてアイチが完全に闇落ちしたらという妄想。
アイ→櫂→レンです。
「好きだよ、櫂くん」
「お前の気持ちに応えることは出来ない」
「ねえ、なんで?どうして僕じゃ駄目なの?」
「本当の俺を知らないお前の気持ちに応えられる程俺は器用じゃない」
「どうしてもレンさんじゃなきゃいけないんだね」
吐き出される言葉は甘い睦言などではなく、誘惑の為に紡がれた悪魔の啓示のようだ。
「僕ならあんな人より、…レンさんよりも君を幸せにしてあげられるのに」
「お前には無理だ」
禍々しくもどこか神々しくて誰よりも自分の事を理解してくれる、自分自身よりも深く愛してくれる。
そんな人物は一人しかいない。
「レンはお前のように器量の小さい人間じゃない」
「…っ」
歯軋り。ぎり、と不快な音が耳に届いた。
「馬鹿な櫂くん。…君もレンさんも何れ僕のものになるのに」
「何?」
「知らなかった?レンさんは既に僕の手の中にあるんだよ」
「どういうことだ、レンをどうした?!」
愛する人を奪われた、その事実に激昂する。
「君がどうしても僕のものにならないならレンさんをもらうよ」
『まあ、レンさんはあくまで妥協案だけどね』
歌うように、囀ずるように軽々しく口にされるそれは櫂の怒りを燃やすには充分すぎた。
「アイチ…俺が知るお前はそんな人間じゃなかったはずだ!一体どうしたんだ…!」
この期においてまだアイチのかつての面影にすがり続けるあたり、櫂は彼に憎悪の気持ちは持っていなかったのだろう。
しかしそれはアイチには適用されない。
「君が僕に敗れた時点でこれは決定事項だったんだよ、櫂くん」
「僕はこんなに君が好きなのに振り向いてくれなかった、だから壊してあげる」
「櫂くんもレンさんも、二人の関係も何もかも全部」
「…やめろ、レンに手を出すな」
「なら君が僕のものになればいい。簡単な選択でしょう?櫂くん。」
「…俺がお前の物になれば、レンには手を出さないんだろう…?」
「なら―…」
「俺はお前を受け入れよう」
「それでこそ僕の愛した櫂くんだよ」
どうせもう戻ることはない、戻れないならこのまま闇に身を沈めて流されてしまおう。
最愛の人を守れるのならそれでいい。
( 汚れた俺をどうか忘れて )