そろそろ毛根が危ない件

旅館で日中の暑さをやり過ごしてから街に出ようという話は結局、逆戻りする形で再合流を果たしたバスの停留所にて繰り上げ・予定変更することで落ち着いた。

各々貴重品の類は手持ちのバックパックやショルダーにまとめてあるし、せっかくなんだから晩ご飯までがっつり遊ぼう。そうとなればとりあえずバスの時刻表を見て、おっあと十分もあれば市街地に戻るバスが出てるな、と視認すれば侃侃諾諾の会議がゴングが鳴った。ファイッ!

「どうする?とりあえず有名どころ制覇する?」
「あー、悪かないけど俺中学の修学旅行で粗方行っちまってんだよねえ」
「くっそこれだからシティボーイは…!ふーんだ、どうせ東北は東京止まりですよ!」
「東京どうだった?」
「「超楽しんだ」」
「素直かよ、ついでに仲良しかよ」
「ていうか昼飯まだだろ。俺アレ行きてえ、天下の台所?」
「なんか違う、それ多分大阪の気がする」
「何市場だっけな…なんか着物っぽい名前のヤツだよ、西陣とか」
「えっ違くない?おさかなさんみたいな名前じゃない?」
「おさかなさん」
「え、マジ?じゃあサンマ市場?」
「……あの、それ、錦市場…」
「「「それだ」」」

ぐるり、皆して振り向いて頷いた先で、このパーティ唯一の良心であり地元民でもある(ここで地元民ステータスより良心ステータスが先に出てくるあたりがこのパーティの古都に対する認識の低さを物語ってる)亜紀さんが、実に何とも言い難い顔で軌道修正をかけてくれた。本来ボケともツッコミとも縁遠い静謐を生きる佳人ですら放置しかねたカオス具合に五秒間黙祷。頭の中の汐崎さんが喪服を引っ張り出してきた。やめなさい誰も死んでません。

「じゃあとりあえずそっから行くか。最寄りは?」
「教えて!ぐぐーる先生!」

ごちゃごちゃ騒いでいるうちにバスが到着する。まあ行先が市街地なのは間違いないし、あとの細かいことは車内で決めようととりあえず乗り込んだ。
車内は相変わらず空いていて、乗客は観光客らしき中年のご夫婦が一組、地元の方らしき年配のご婦人が数人。多少喋ってもお邪魔にならないよう、人気の少ない後部座席を選んで座る。

進行方向から見て右側、二人掛け座席の前後。行きは私と亜紀さん、黒尾くんと岩泉くんとで並んでいたが、今私は岩泉くんと共に、前に座る亜紀さんと黒尾くんの後頭部を眺めている。

「………。」

横に腰掛ける岩泉くんが徐にデイパックをごそごそする。現れたミントブルーのタオルを受け取れば、端的に一言。

「必要なら洗って返せ」

黙って頷き、その時を待つ。

悪路を進むバスが短いトンネルに差し掛かる。暗転、駆け抜けるオレンジの誘導灯、ゴオオオ、と風を切る車体が唸りの中へ飛び込んだ瞬間。
下賜されたタオルを顔に押し付け、私は頭の中の汐崎さんと共に、実に遠慮なく全力で叫んだ。

「どおおおおおおおおおおいうことなのおおおおおッ!!」

ちょっと待ってくれ、これまでいろいろメタいこと言ってきといて今更カマトト()ぶんなとか言われっかもだけど私別に小説で言うところの神の視点ポジションとかじゃないんだよ、ただのモブなんだよ!いるだろほら、主人公サイドを際立たせるべく別視点から解説加えにくる名も無きモブ!アレ!私アレなんだよ!主役陣営が乗り越えてきた諸々とか知らされてないんだよ!
旅館で謎のシリアル展開してる間に別サイドで一体何がどう転んだらド級の美人が明らかさっき泣き止みました顔(しかし一縷とも損なわれない美しさ)になり、尚且つ同行したミステリアス系イケメン(ただし意外と上戸なやんちゃ系)と始終手え繋いでることになるんだ!
エッ青春なの?修学旅行の班行動でちょっとはぐれてた間にカップル成立してた系男女なの?若いねヒューヒューとか言えば正解?いやいいけど!お似合いだもの頼まれたら指笛だって練習しちゃうけど!式場だって呼んじゃうけど!
説明を!!要求する!!!

ゴオオオッ。

バスがトンネルが通り抜けた。舞い戻る採光と通常の走行音。タオルから上げた顔がスンッとなった。手の中のミントブルーを見下ろす。汚れはない。岩泉くんにそっと見せる。無事生還を果たしたタオルを見やった岩泉くんは一つ頷き、回収したそれをバックパックに仕舞った。クリーニング不要。

「……どういうことだと思う?」
「お前も学習しねえな」

つまり「俺に聞いてどうすんだ」ということらしい。いやそうかもだけど、そうかもなんだが、この場でこの混乱と荒ぶりを他の誰と共有しろというんだ。斜め前で船漕いでる老婦人に突撃☆車内のおばーちゃんを敢行するわけにはいかんだろ?驚かせ過ぎて心臓止まったらマジ重罪。頭の中の汐崎さんはって?やめてくれあんなクレイジーの化身、おい誰だ今ブーメランとか言ったヤツ。前に出ろ、前にだ。

現在地を知らせるラインに従い向かったバス停に到着した時点で、長身を屈ませて時刻表を覗き込んでいた黒尾くんの手には、まるで最初からそうだったような当然さで亜紀さんの手が収まっていた。
なんてったって嘘をつけない正直体質(おい誰だ今鼻で笑ったヤツ、前にd(以下略)、骨ばった大きな手とそれにきゅっと包まれた小さな手の重なりを二度見どころか三度見したのは言うまでもない。これに関しては流石の岩泉くんも一瞬ぎょっとしていたのだから本物だ。

しかし「次は何分後だな」なんて時刻表を尻目にけろりとした黒尾くんの終始一貫の平然は明らかに詮索や追及の一切を遮断する彼お得意の忍法・いつも通りで、一方空いた手に紅茶のペットボトルを握り締め帽子の下で沈黙する亜紀さんは見るからに気安く絡めるテンションじゃない。警告標識もないのに地雷源が多過ぎる。頭の中の汐崎さんが立ち往生して迷える子羊一直線。あっ待ってドナドナしないで切実に。
うっかりしてると目から口からはみ出しそうな混乱をキワッキワで飲みくだし、食傷でも起こしそうな状態でバスに乗り込むまで通常運転を貫いた私の努力はもっと褒められていいと思う。

「ただ、そうだな、汐崎」
「ろ?」
「橘からなるべく目え離すな」
「、」

街への悪路を逆戻るバスがまた大きく上下にバウンドする。その衝撃を潜るようにして届いた声音の低さに目を瞬いた。見上げた右隣、常と変わらぬ仏頂面に見せたその眼が、油断ない光を宿してこちらを見据えている。脳みその裏側を掠めた既視感を追いかけて、行き着いた記憶は高校時代、ギャラリーから見詰めていたコート上の緊迫。

「部屋に入っちまえば俺らの目は届かなくなる。出歩く時は俺か黒尾に声かけろ。旅館にいる間は橘も汐崎も単独では行動すんな」
「……」
「…念のためって話だ。んな深刻な顔すんな」
「念のためってレベルの司令じゃなくない…?頭の中の汐崎さんが対テロ体制レベルなんだけど…?」
「(頭の中汐崎さん?)あー…とりあえずいつものダダ絡みを二割増にしてろ」
「オーケー我が命に代えても」
「代えんでいい。お前を犠牲にしていいわけねえだろ」
「はいストップー!本日の男前は供給過剰ー!」

1日の摂取量を超える男前の過剰供給で心拍数体温共に上昇の一途を辿ってる。なんならこの発汗で代謝効率が上がりそうな勢いである。今日さっきからすごくない?ナチュラルボーンに男前なのに発揮の仕方が本気過ぎん?一回生産休止しよう、工場稼働停止しよう。

「労働基準法遵守推奨…!」
「春闘ならもう終わったぞ」

みんな諦めてくれ、醤油サイドでシリアスが締まらないのは仕様なんだ。来世に期待。






エマージェンシーエマージェンシー、頭の中の汐崎さんがお玉片手に臨戦体制突入。おい誰だよシリアスにならんとか請け負ったヤツ、それがフラグだよバカ野郎シリアスが服着て歩いてきたよ鼻歌歌う勢いで!お玉が武器に入るか論争はとりあえず保留だ、今コレそういう空気じゃない。

「へえ、朝食をみなさんでですか。いいですね、古き良き学生寮らしくて」
「あー、まあ物理的にも文化住t…や、味のある、はい、味わいのある寮だと思います」
「ふふ、良い寮生さんに恵まれたようで安心しました。本当はあの子にはオートロックマンションを宛がうつもりでいたんですけど、物件探しから自分ですると言って聞かないものでしたから」

独立心旺盛なのは頼もしいですが、年頃の娘を持つ父親としては心が休まりませんね。

レフ板でも用意してんのかとツッコミたくなる輝かしい笑顔を前に顔が引きつりそうになる。これは言外に「うちのスーパービューティな愛娘を低セキュリティのボロアパートでお前らみたいなどこ馬骨な学生と半共同生活させてやってんだ何かあったらわかってんな」とか言われてんのかな。えっ穿ち過ぎ?ばっか京都だぞ?噂じゃ「お茶漬け食ってく?」が「そろそろ帰れ☆」を意味する県だぞ?なにその心抉られる異文化交流(偏見である)。

何はともあれまずは恐ろしく整った顔面が秀麗な眉を下げ気味に困った笑みを浮かべた際の破壊力を想像してほしい。セルフレフ板付きのやつ。少なくとも通りすがった宿泊客のお姉さまが熱い視線を向けた直後、その美男の前に座す借りてきた猫(雑種)を何故このちんちくりんがという目で値踏みしていくレベルである。いや好きで座ってンじゃないやい代わってくれ、この場ごと熨斗つけて献上する。

説明しよう、本当だったら満員列車ばりに寿司パッキングな錦市場でもみくちゃンなりながら揚げ物食べたり八ツ橋買ったり隠れ家的カフェで抹茶ラテったりお庭で青葉眺めて黄昏れたりの京都旅行記一日目をハイライトでお送りする筈のところ、なぜ旅館ロビー奥のシミ一つで切腹危機到来しそうなソファに腰掛けキズ一つで以下同文のローテーブルを挟み、閉月羞花の美男を前にちんちくりん(醤油)が歓談しなければならないのかを。いや説明いらんとか言うな、聞いてくれ切実に。コンパクトに頑張るから。

まず旅館に戻った途端、玄関先から飛んで現れた美少女が電光石火で亜紀さんを拉致した。事件である。聞けばなんと部活から帰ってきた中学生の妹さんだというから驚愕した。御年十二にして将来有望の見目麗しき美少女ではあったが、「もおおおお姉ちゃん帰ってくんなら言うといてよっていうかカレシ出来たんならもっと言うといてよめっちゃイケメンやんこんにちは!ちょお話聞かせて!」という字面からお察しのヒロイン級テンションだった。似て…ねえ…。
このベリープリチーでパワフルな美少女の流れるような挨拶と誘拐劇に宮城県産地方民はついぞ太刀打ち出来なかった。ここで怯むどころかにこやかに同行を承諾した(いや「させた」?)黒尾くんが見せたシティボーイの真骨頂に最敬礼。都会人の美形耐性標準装備疑惑に拍車がかかった瞬間である。

一方取り残された私たちは中居さんに声をかけられた。なんでも他の宿泊客との兼ね合いか何かで男子陣の部屋を急遽変更(ただしグレードアップ)したいとのことで、荷物を移動させたいという。当然私も同行するつもりだったのだが、中居さんは岩泉くんだけが行くと思っていたらしく、お連れ様はお待ちの間にと冷茶を出されてしまった。美人中居さんによるこの善意のもてなし、断じて無下には出来ぬと顔面で訴えたところ、眉間に皺を入れた岩泉くんは沈黙数秒、「すぐ戻る、こっから動くなよ」と言い含めて中居さんについて行った。扱いが幼児。

さてもうお察しだろう、これ絶対たっけえ玉露だようんまいと戦慄しながらお茶を啜ってたところに現れたのが、スリーピースのジャケットを脱ぎ、幾分くつろいだ装いがまた嫌味なほど似合うこの美男。名を橘俊也、亜紀さんのお父上である。

「…お察しだと思いますが、私はあの子に心を開いてもらえないようでして」
「エッおっそんっ」
「構いませんよ、自覚はあります。私はあの子の母親の再婚相手でしてね」
「、」

似ていないでしょう、と微笑むお父上の思わぬ発言に、その顔をまじまじ見てしまった。予想だにせぬカミングアウトにリアクションが素になる。改めて見たところで相変わらず非の打ち所の見当たらない美形だ。だが言われてみると確かに、亜紀さんの顔立ちに面影を見いだせない。
繕う間もなかった分顔に全部出たんだろう、お父上は悪戯げに笑って尋ねた。

「おっと、気づきませんでしたか?言わなければよかったかな」
「や、美形から美形が生まれるのは自然の摂理と思ってるんで…」
「、はは!なるほど、いやそれは…それで親子に見て頂けるなら悪くはないか」

快活に笑うお父上の影に鶯色の着物を纏ったお母上の姿を思い出す。無論美しいには違いない人だったが、…面影が重なったのは亜紀さんではなく、ものの数秒顔を合わしただけの妹さんの方だ。
お父上とはベクトルが違う。お母上と妹さんとは一線を画する。
改めて思い描く時、そういう仕方で、脳裏に浮かぶ亜紀さんの顔立ちの華やかさは群を抜いている。

「ユイナ…下の娘は物心つく頃から私に馴染んでくれたんですが、思春期だったあの子には肩身の狭い思いをさせてしまって。だから、今回の帰省を聞いた時は正直安心したんです」

身内の欲目もありますがあの容姿でしょう、上京して何かあったらと気を揉みますし、何より妻が繊細で、進学を機にあの子が家族と距離を置こうとしているんじゃと酷く気に病んでいましたから。そうそう、今日の晩はひさびさに家族団欒で食事ができると、女将の仕事を切り上げて料理の仕込みをしているんです。だからせめて夜の時間は、あの子に母屋の方で過ごしてほしくて。もちろんあの子のわがままで、皆さんに京都までご足労いただいたとは承知しています。でも、私たち皆があの子の帰省を楽しみにしていたもので。ですから、

「もしあの子がためらうようなら、背中を押してはもらえませんか」

カッコン。
鹿威しが鳴った。

「………?」

いつの間にだろう、手足が妙に冷えている。
ソファのそば、はめ殺しの全面ガラスは分厚くて、蝉の鳴き声が聞こえない。

淀みない口調だった。何もおかしな話じゃない。矛盾もない。あったとしてそれを見抜くだけの頭を持ち合わせていないから仕様がないが。
ただ、頭の中の汐崎さんがお玉片手に黙り込んでいる。記憶の何かに引っかかる。一度経験したものに似た何かが、目の前の現在を引っ掻くように。

不自然に間延びする沈黙に、お父上が怪訝な顔をするのがわかる。あの、と様子を伺われ、何か言わねばと口を開いた。
冷茶に溶け残る氷の破片に視線を突き刺し、やっぱり泳がせて、上手く言える自信のないまま、なし崩しに声にする。

「――――あの、私、橘家の人間じゃなくて。…や、当たり前なんですけど」
「……?」

私、亜紀さんの単なる同寮生で同輩で、モブで烏滸がましいんですけど友人で、だから、こういうのって、こう、家族がっていうか。

「亜紀さんが、亜紀さんの意志で、亜紀さんのしたいようにするべきだと思うんです」

井草の匂いがする。

夏の夕方だ。黄昏と呼ぶには眩しすぎる残暑の斜陽、降りしきる蝉時雨。今よりもっと夏半ばの、縁側、線香、鼓膜に名残る木魚の残滓。

優しいことばと口元の笑み。選ばなかったものだ。その時どうしてそうしたのか、自分じゃ定かにわからない。
ただ聞かれた。しなびた手と、かなしい声で。それが答えで真実だった。

灯、灯。

おまえはどうしたい。


「亜紀さんが“本当に”そうしたいなら、喜んで送り出します」


でも亜紀さんが、それを望まないなら。


「部屋で一晩中ウノします」
「阿呆か。寝ろ」

スッパァン。
素ン晴らしいキレで脳天をはたかれた。ものっそイイ音でやられた拍子に頭の中の汐崎さんがクリーンヒットで吹っ飛んだ。ねえ待って今見せ場じゃね?超見せ場だったくね!?

「水戸◯門なら8:45のスーパー紋所タイム!!」
「すんません、頭のネジが飛ンでるだけで実害はないんで」
「You pissed me off!!」

天を仰いで抗議しようとした瞬間、ずしり、右肩に分厚い手のひらが降ってきた。やすやすと肩を掴む大きな手から、じわり、移り込む体温の重さに、思わず見上げた斜交いのアングル。

見慣れた彼の精悍な輪郭と短い黒髪の下、お父上を見据える瞳の鋭さにことばが引っ込んだ。
ひりつくような警戒心、肌を刺す牽制と威嚇。

お父上は沈黙のうちに突然の闖入者を見据えていた。その口元に笑みはない。だが岩泉くんはまるで怯んでいなかった。

「勝手に聞いてすみません。けど、コイツの言う通り、そういうことは本人とカオ突き合わせて話した方がいいんじゃないスかね」
「……そうだね」

君たちの言う通りだ。

かたどられたお手本のような笑みに、初めて明確にぞっとした。

肩を掴む唯一の温度に身を寄せたのは本能で、瞬間、二の腕に移ったその大きな手が私をソファから剥がすように引っ張り上げた。
たたらを踏んでよろめく私を、真っ直ぐに立つ岩泉くんは当然のように受け止める。

「失礼します」

会話の襖を閉め切るように告げ、彼は迷わず踵を返す。惰性だけの二足歩行を開始した。この寒暖差はなんだ。シリアルとシリアスの落差で片付けるにはそろそろ無理がないか。

腕を引かれるまま乗り込んだエレベーターで、人気のない客室階に辿り着く。分厚い絨毯の上、淀みなく歩みを進めていた岩泉くんが唐突に足を止めた。
頭一つと半分の身長差、凛々しい猫目に覗き込まれる。腕を放し、降りてきた手が手首を囲った。

大丈夫か。目だけで尋ねられたその四文字に、へらへら笑うこともできなかった。冬の澄んだ水面を思わせる硬質な透明度を誇る瞳を、ただ言葉もなく見つめ返す。

「…汐崎、バスで言ったアレ、覚えてるな」

かろうじて肯首する。間髪入れず彼は続けた。

「追加する」

お前は俺から離れるな。

油断なく研ぎ澄まされた眼差しの鋭さに、ふたたび深く肯首した。嫌な予感がしていた。これを感じてタダで済んだことのない、ロクじゃない類の予感だ。
それは多分、大抵のことを土壇場の地力で収めてしまうこの人を、コート上に立つときと同じ顔をさせる何かとよく似たシロモノなのだ。

190424

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