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鳥羽・伏見の戦が沢山の犠牲を伴って終結を迎え辛くも敗戦してしまいその上、慶喜公が江戸へ逃走を図った今、新選組は官軍に反旗を翻す集団となってしまう。落ち目の幕府に味方する藩などいなく、とうに名ばかりの侍になった彼ら。そんな矢先、宇都宮城を奪還するため先陣切って戦っていた土方が敵の襲撃を受け倒れてしまう。今まで土方の担っていた雑務などを代わりに斎藤が負うことになってしまって。
「…すまねえな斎藤」
そう密かに呟いた後、申し訳なさそうに自由の利く左腕で漆黒の髪をくしゃりと撫ぜた。土方の謝辞に斎藤は首を振る。
「いいえ、心配無用です。それよりあんたの身が心配だ副長」
斎藤は僅か後悔の念と労るような色を青褐の双眸に滲ませ土方を見据えた。土方は向けられた視線をしかと受け止め苦笑を零す。
「俺が復帰するまで色々と迷惑かけちまうかもしれねえが宜しく頼む」
「了承しました」
静かに頭を下げ斎藤は今まで座していた場所から立ち上がり襖の方へ歩みを進めようとしたそのとき土方が口を開く。
「大切なものを見失うんじゃねえぞ」
その言葉に斎藤は若干、訝しげに土方を見遣るが彼の表情は微動だにせず半ば困惑する。
「お言葉ですが副長、それは一体どういう意味ですか?」
斎藤の問いかけに土方は答えずただ笑みを浮かべるだけだった。何かを悟ったような、それでいてどこか愉快そうな笑み。斎藤はとうとう匙を投げ出し首を傾げる。そんな様子を見、土方は更に言葉を投げかけた。
「これは俺から言えねえ、あとは自分で考えろってこたあ算段だな」
「そうですか」
なにやらいまいち腑に落ちないような切れの悪い口調で返事する斎藤。
「まあ頑張れよ」
土方はにやりと口の端に嫣然とした笑みを刻む。その姿に斎藤は既視感を覚える。あの笑顔、どこかで見たような記憶が。脳内の引き出しを引っ張り出しひとつひとつ咀嚼していくと、やはり似ていた。彼のいつも飄々とした笑みを湛え余裕綽々とした態度をとっていた沖田に。
「あんたも意地が悪いですね」
呆れたよう深いため息を吐き斎藤は襖に手をかける。
「昔っから俺はこうだ」
悪びれた風もなくさらりと言いのけた土方に苦みを帯びた笑みを寄越し今度こそこの場をあとにしようと斎藤は一礼して出て行った。



***

ひとり部屋に残された土方はさもありなんと紫苑の双眸を眇める。
「千鶴の場合は見ていても分かりやすかったけどまさかあの斎藤がな、」
土方はそこまで言い口を閉ざす。先程の様子から見ると自分の気持ちに気づくのはだいぶ後になりそうだ。あの二人を見る限り相性も良さそうだしきっと上手くいくだろう。出来れば斎藤にはこれ以上、新選組というあまりにも重すぎる責を担って欲しくない。今や新選組は朝敵と見做され立場も危ういものとなっている。それに近藤がいない現在、新選組を纏めているのは紛れもないこの自分だ。確かに斎藤の実力に裏打ちされた密偵の力を失うのは非常に惜しい。だけれど、あいつは千鶴と幸せになるべき人間。土方はそう思いを巡らせ、ふっと自嘲的な笑みを浮かべる。
「武士としての生き様を世に見せつけるのは俺だけでいい」
土方の独り言は誰にも聞かれることなく空に溶けていった。








さいちづ文なのにさいちづがどこにもないという突っ込みはご勘弁下さい。
最初にプロットを練るとき土方さんを登場させる機会をば…!と思い感情の赴くままがりがり書いてたら土方さんの登場する場面が多くなったという理由です^^▽
次からはちゃんとさいちづ出ます、はい。
あっでも土方さんがこっそり出てても素知らぬふりをして下さると助かります(なんという苦し紛れの言い訳)


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