小ネタ | ナノ
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はらりはらりと綿のように舞い散る粉雪。地面に落ちては儚く消えていくその様を見つめ、ふと息を詰めた。暫く時間が経ち彼女の頬が真っ赤に染まっていく。その時だった、後ろに濃い影が差したのは。
「何してんだお前は」
呆れ気味なそれでいて暖かさの滲む声音。昔は決して想像出来なかったろう。一拍置き振り向いた千鶴は微笑を浮かべた。珊瑚色の素朴さを感じさせる着物を纏いこちらを真っ直ぐ見据える姿はどこから見ても淑やかな女だ。
「雪が綺麗だったので見ていました」
ほろりと零れる真白な吐息と共に土方は妻のもとへ歩み寄ろうとする。
「ったく、体を冷やして熱でも出したらてめえが困るんだろう」
眉間に皺を刻み着物のところどころに付着している雪を無骨な手の平が拭い落とした。触れた箇所から浸透してくる心地良い温もりに千鶴は瞑目する。
「歳三さんこそ寒くないのですか?」
気遣うような問いかけに土方は苦みを帯びたような笑みを端正な面に広げた。
「俺は大丈夫だ。お前の方が長い間外にいたと思うが」
粗雑な物言いの中に隠れている慈しみの情に千鶴は密か口元を綻ばせる。いつまでもあなたと一緒にいれますように。言葉にするのは恥ずかしいから視線へ万感の想いを込めて。


「なあ、左之」
不意にかけられた友人の声が耳に届いた原田は振り向く。
「何だ新八」
目の前で自分を呼んだのだろう今日も相変わらず緑色のジャージに身を包んでいる友人の顔をまじまじと見つめた。
「土方さん具合でも悪いんか?」
そう呟く彼の眼差しは机二つ分離れているだろう古典教諭用の机でノートパソコンと睨めっこしている端正な面差しに注がれていて。
「特に変わらないように見えるけどな。一体どうしたんだ」
原田の問いかけに新八は若干、気まずそうに節くれだった指で頬を掻く。
「いやー、それがさ…」
妙に歯切れの悪い台詞に原田は形のよい眉を顰める。新八は原田のそんな心情を敏感に悟ったのか早口になり始めた。
「普段は休憩時間に土方さん煙草吸ってるだろ?」
「ああ」
新八の問いかけに原田は相づちを打って続きを促す。
「それなのに今日は一本も吸ってねえから珍しいと思ったんだよ」
新八の如何にも気味悪そうな表情はさておき原田はそれもそうだな、と首を捻る。その疑問は自分も感じていた。だけど喉が痛いのかという簡潔な思いのみで其処まで深く考えようともしなかったのだ。周りの空気に大変、疎いだろう友人までもが感じ取るほどだから変化はかなり分かりやすい。今のところ彼の表情は平静そのもので苛々や焦りというものは見られなかった。さしずめ彼女に煙草の煙がきついから止めてと言われたのだろう。それともキスする時、臭いが嫌と言われたのだろうか。どちらにせよあの土方に禁煙を強いることが出来る彼女なら自分も一度、会ってみたいと思う。なにせ冷徹と噂される男の手綱を上手く操っているのだから。それと同時に原田は零れ落ちる笑みを抑えきれなかった。
「まさかあの土方さんが女の尻に敷かれるって予想つかなかったな」
そう密やかに呟き心底、楽しげに喉を鳴らし原田はついと薄茶色の双眸を細める。そんな様子を永倉は不思議に思ったのか訝しげに眉根を寄せ原田を横目で見遣った。自分へ注がれる視線に目敏く気づき原田は赤褐色の髪をさらりと揺らした後、意地の悪そうな笑みを口元に浮かべる。
「何をにやにやしてんだよ?」
永倉の問いかけに原田は友人の筋金入りの鈍さにほとほと呆れたようで、あからさまにため息を吐いてみせた。先程は珍しく勘が冴えてるなと思っていたのに賢くなっていない。多分こいつの事だから脳みそが筋肉細胞でがちがちに凝り固まっているのだろう。





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