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その憂いに名を



つい最近出したという漫才コンビのCDを謙也先輩と部活の前に聴いた。
コンビのと金色先輩のはまぁ聴けた。問題はツッコミの方。
聴き終わった後の気まずさに正直聴くんじゃなかったと言ったら、流石の謙也先輩も引き気味だった。

どないやねん、こんなん。
全然おもろないわ。



「あの歌は先輩の妄想の塊っすね」
「お、なんや財前聴いたんか!」

部活の時間になってツッコミのあほの先輩に言ってみた。溜息と一緒に出た心からの皮肉なのになんと前向きな事か。駄目やこいつ早よ何とかしないと。

「小春がかわいーの歌ってくれたからなぁ!俺も本気で歌ったったわ!どうや!」
「…」

笑う先輩は本当に楽しそうだ。全力で小春先輩が好きなのはわかるが明らかなネタ曲できた相手に、めちゃくちゃ気持ち込めて歌い返すなんてこの先輩は馬鹿なのか真直ぐなのか。

「何やその顔ブスやなぁ」
「…ほんま先輩ってあほや」
「あ? 失礼なやっちゃな! おい!」

喋るだけ無駄だと、あほの前から離れてアップを始める事にする。
よりによって小春先輩がアップの相手をしてくれると言うものだから、ユウジ先輩への報復も込めて自分としても珍しく了承した。

「なっなんでや小春! 浮気か!」
「たまには光のイケメンを充電しないと駄目やねーんっ」
「こ、こここはるぅ〜…」
「ユウジうっさいわ!はよやれや!」

数メートルも離れて漫才すな。
何度も名前を呼びながら謙也先輩の足下で蹲るのを皆同様に小春先輩も笑って見ていた。



「先輩あれ野放しでいいんすか」

つい口から出てしまった問いに自分でも驚いた。更に驚いた顔で見返してくる小春先輩は内容を察したらしくまた笑って口を開く。

「ユウくんの先は常々心配してるんよ」
「…先輩は」
「ウチはえぇの、面白ければ。やから心配なんはユウくんの方」

部長の掛け声をぼんやり聞きながら小春先輩の声を追う。
きっとお互いがお互いの距離をわかってない。どこまでがネタで本気か、先輩は相手の領域に深く踏み込む事のない様にしている。
この人は、自分より相手を気遣ってネタで取繕うんや。
全然面白くなんてない。

「顔だけ見たらまぁイケメンよね。だからあまり今後に響く様な事、してほしくはないんよ」

そうやとしてもあの歌は流石にちょっと怖かったんやけど、と笑う先輩はいつもより少し眉が下がっていた。気がした。



(二人共 ほんまにあほっすわ)


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