? 登場人物 ¿
如月 奏(キサラギ カナデ)
山城 早月(ヤマシロ サツキ) 他所のお子さん
二人は寮で同室でした。
ねぇ、奏。
僕たち、ずっと友達だよね?
何があっても、どれだけ時が経っても。
――友達でいようね。
「かーなーでー! おーきーろー!」
昼下がりの屋上。 耳元で叫ばれた如月奏は、閉じていた目を開き文字通り飛び起きた。声の主を確認して、小さく舌打ちをしな がらガシガシと頭を掻く。
「早月……耳元ででけぇ声出すなっていつも言ってんだ ろ」
早月と呼ばれた少年は楽しそうにくすりと笑う。左目を覆うキャラメルブラウンの髪が風に揺れた。
両手に持っていた弁当箱を差し出しながら、奏の横に腰を下ろす。
「もうお昼だよ? お弁当食べようよ」
「あぁ……もうそんな時間か」
「そうだよー。まったく、サボり魔なんだから奏は。授業はちゃんと受けないとダメなんだよ? 卒業出来なくても知らないからね」
当を広げながら上目で奏のことを見つめ、子供を叱るような口調で言う早月。
奏は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると、ふいと顔を背けた。
彼らが通う学校――泉崎学園は、殺し屋を育てる為に作られた学園。孤島に建っており全寮制で卒業、若しくは死ぬまで学園の敷地から出ることを許されない、牢獄のような学園。生徒会を絶対的な正義と置き、反逆する者には容赦を与えない。
そんな場所で、真面目に授業を受けることなど彼には出来なかった。
「まぁ、いいや。いただきまーす」
それでも、奏はここでの生活が好きだった。初めて親友ができ、毎日がとても楽しかったのだ。
こんな日々がずっと続けばいいとさえ思えた。
だが、運命はそれを許さなかった。
「なんでたよ……どうしてなんだよ、奏っ!!」
部屋に、早月の怒鳴り声が響く。
怒りに震える彼は、目の前で俯く奏を睨みつけた。
「奏が、レベルだったなんて……!」
レベル、という早月の言葉に奏の肩がピクリと揺れた。
レベルとは、この学園に存在する反逆組織の名前だ。学園や生徒会のやり方に従えない者達の集まり。奏も その組織の一員だった。それが、早月はどうしても許せなかった。
「どうして、何も言ってくれなかったんだよ……友達だと思ってたのに……!」
「……言えるわけ、ないだろ」
自分がレベルであること、レベルの活動内容、メンバー。それらは決して他言してはならない決まりになっている。生徒会に知られてしまえば、全員ただでは済まないのだから。
それが、たとえ親友であっても。
「信じてたのに……っ」
絞り出すような声でそう言った早月は、自分の武器である剣を抜くと刃先を奏へと向けた。両手でしっかりと柄を握り構える。
奏もまたホルダーから銃を取り出すと早月へと銃口を向けた。
「……たとえ、奏を殺すことになっても……僕は生徒会に伝える」
早月は静かに呟くと床を蹴った。銃を構える奏へと剣を振りかぶる。奏は、僅かに震える手に力を入れ引き金を引いた。
「――…………」
見慣れた天井と、伸ばされた自分の手が視界に入った。その手は虚しく空を切り下ろされる。
懐かしい夢を見た気がする。そう遠くない過去。ほんの小さなすれ違いで、親友をこの手にかけた。
「さ……つき……」
何度も後悔した。あの時、引き金を引かなければ。もっとちゃんと狙っていれば。……早月は死ななかったかもしれない。
でも、どれだけ後悔しても早月は帰ってこない。いっそ、全て忘れてしまうことが出来ればどんなに楽だろうか。だけど、その思い出は手放すにはあまりにも暖かくて。幸せすぎて。
どんなに辛くても、苦しくても……手放すことなど出来なかった。
「……ごめんな……」
小さな声で発せられた謝罪は、誰もいない部屋に溶ける。
外では、降り始めた雨がどこか物悲しげに窓を叩いていた。
*おしまい*