? 登場人物 ¿
トワ
???
ワンライで書いたもの
雪が降ったらしい。
朝起きていつもと違う明るさに窓の外を見ると、そこには真っ白な世界が広がっていた。
「わぁ!」
いつもは腕に引っ掛けている布を首に巻いて外に出た。雪に足を突っ込んで思わず飛び上がる。
「つめたっ!」
当たり前のことを叫んだら、ふっと笑いがこぼれた。雪だし、冷たいのは当たり前。それに、ほら。俺裸足じゃん。
『当たり前じゃん…雪なんだから…』
ふと、声が聞こえた気がした。周りを見ても誰もいない。
どこかで聞いたような声。もう一度思い出そうとしてみたけど、何故か思い出せなかった。
『ねぇ、こっち来て』
またあの声だ。
綺麗な黄色が、目の前を横切った気がした。少し離れたところで“それ”は俺を手招いている。
無意識にそれを追いかけて雪の中を駆け出していた。
『こっち。こっちだよ』
足が冷たい。冷たいを通り越して痛くなってきた。
でも、俺を呼ぶそれに触れたくて無我夢中で走った。息が切れても、転んでも。
「待って、待ってよ、『 』ーー」
名前を呼ぶと、それは立ち止まってこっちを振り返る。俺、今なんて呼んだ……?
『……なぁに、トワ?』
俺の方を見てそれは……その人は俺へ手を差し出す。その手を掴もうとすると、俺の手はすり抜けてしまった。
ぽたりと、雪の上に水滴が落ちる。雨が降ってきたのかと思って空を見上げたけど、そこには綺麗な青空が広がっていた。
『泣かないで、トワ。僕はここにいるよ』
言われて初めて、自分が泣いていることに気づいた。顔もわからないその人は、俺の頭をふわりと撫でる。
気のせいかもしれないけれど、ほんの少しだけ温かい気がした。
「君は、誰?」
『僕……僕は……』
その人は少しだけ困ったような声を出す。
『僕は、君のことが大好きな人だよ』
その言葉に、とくんと心臓が跳ねた。
今まで、死神だとか気味が悪いとか言う人ばかりだったから。好きなんて、言われたことがなかったから。
ーーいや、違う。1人だけ、いたじゃないか。俺はもう、その人のことを思い出すことが出来ないけれど。
「君は……俺が忘れてしまった、大切な人なんだね」
俺の言葉に、その人は悲しそうに笑った。綺麗な薄い狐色の髪。俺と同じリボン。
どうしても、顔が思い出せない。顔も、名前も、声も、仕草も、匂いも……俺の中には残っていない。
ただ、大切だったという感情だけが、俺の中に置き去りにされている。
その影が消えてしまう直前、懐かしい声が聞こえた気がした。
いつか、また。
会いに来て。ずっと、待ってるから。