? 登場人物 ¿

空中青澄(ソラナカアオト)
神添楼鈴(カミゾエルリ)

宇賀神綴(ウガジンツヅル)


赤軍1年生の別れの話。
お題はお題bot【@odai_bot00】様からお借りしました。










 君は、死なないと思ってた。

 君は、負けないと思ってた。

 だって君は――





 あんなに、強かったじゃないか。



















 どんよりと、重く落ちてきそうな曇り空。医務室の窓からその空を見上げた神添楼鈴は、ほうと溜息をついた。
「嫌な天気ー……」
 こういう日は決まって何か良くないことが起きるのだ。
 窓を閉め、机に並んだ書類をまとめるために1枚1枚手に取っていく。1年だからって雑務ばっかり、などとぼやきながら。
 残り数枚、というところで突如大きな音を立ててドアが開いた。次いで彼女の名を呼ぶ声。驚いて飛び上がった楼鈴の手から、バサバサと書類が落ちていく。
 聞き覚えのある声に、楼鈴は駆け出しそうな心臓を宥めるよう胸に手を当てドアへと視線を向けた。
「び、びびびびっくりしたじゃないの青ちゃ――」
 医務室の入り口に立つ同級生、空中青澄の姿を見て楼鈴は言葉を失う。否――正確には、青澄が“背負っているもの”を見て言葉を失ったのだ。
 見覚えのある赤いマフラー。そして、だらりと下げられた腕から、同じように赤い液体が床に溢れていく。
「楼鈴……頼む、綴のこと、助けてくれよ……!」
「え……」
 その脱力の仕方、そして出血量。恐らく、既に彼は息絶えているはずだ。例え生きていたとしても、助かる見込みはない。
 それでも青澄は、楼鈴に助けを乞う。助けて、お前なら助けられるだろ、と。
「そんな……無理だよ……るりには無理だよ……無理、だよ……っ」
「何でだよ……? お前、医療班だろ? なぁ、頼むよ、早くしないと綴が――」
 パシッ。
 乾いた音が室内に響く。暫くの沈黙の後、楼鈴が青澄の服を掴んだ。涙の浮かんだ瞳で彼女を睨みつける。
「しっかりしてよ、青ちゃん! ちゃんと見て! つづちゃんは……つづちゃんはもう、助からないよ……!」
 楼鈴の言葉に青澄はその場にへたり込む。彼女の背中から落ちそうになった綴を支えようとしてバランスを崩した楼鈴もまた、その場に膝をついた。
 腕の中にいる綴を見て、楼鈴は唇を噛み締めた。
 ああ、やっぱり、この人はもう――。
「……つき」
「青ちゃん……?」
 床に視線を落としたまま、青澄は震える声で言葉を紡ぐ。ぱたぱたと、滴が床に落ちた。涙で濡れた瞳を楼鈴に抱きかかえられた綴へ向け手を伸ばす。
「嘘つき……嘘、つき……っ。綴、言ってたじゃん、負けないって……絶対、帰ってくるって……! それなのに……なんで……っ」
 徐々に体温を失っていく彼の手を握り、青澄は泣きながら訴えかける。だけど綴がその声に反応する事も、手を握り返すことももうない。
「綴……目、開けてよ……返事してよ……いつもみたいに、オレのこと呼んでよ……置いて、いかないでよ……」
 今まで見たことのない彼女の姿に、楼鈴は何も言えなくなってしまう。ただ、涙を流すことしか今の彼女には出来なかった。
「……つづちゃんの馬鹿」


 小さく呟かれた言葉は、薄暗くなってきた部屋の中に溶けて消えていった。







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